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憧れの人にもう一度会いたくて、薬剤師になろうと決めた。
今でも思い出す、白衣を翻す彼の姿。その姿をもう一度見たくて、あの時あったのが幻じゃなかったと証明したくて、薬剤師を目指した。
そんな不純な動機では長くは続かないと思っていたのに、意外にも長続きするもので、緒方桂花は今年の春、国家試験に合格し晴れて薬剤師として調剤薬局に勤めることとなった。
しかも、そこにいた先輩薬剤師の人が憧れの人にそっくりだったものだから、もうテンションは上がりっぱなしだ。もちろん、その人が憧れの人そのものではないことは解っている。
だって、目指すきっかけになったその人と会ったのは今から十五年も前。その時に三十代くらいの見た目だったのだから、憧れの人はすでに四十代後半になっているはずだ。
ひょっとしたら親戚とか年の離れた兄弟という可能性は残されているけど、別人であることは間違いない。
ともかく、ずっと憧れていた薬剤師としてデビューし、しかも憧れの人と似た顔立ちの人と一緒に働ける。これほど幸せなことはない。
なかったのだが――
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