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2015年 8月
横浜 某所
その日は、普通の一日だった。
目も開けてられない程の日差しと、嫌になる程の気温と湿度。
8月では当たり前の日々。
仕事をする人。
学校に行く人。
休日を自由に過ごす人。
何もしない人。
街の人達にとって、いつもと変わらない日常。
昨日…いや
数時間前までは、俺もその日常の中にいた。
鉄錆の匂いと、ドブ臭さが充満する倉庫の中。
遠くからは、暗闇を照らす赤色灯が回る光と耳障りなサイレンの音が、少しづつこの中に流れ込んできていた。
倉庫の中には、俺ともう1人いる。
その一人は、服が無惨に破り捨てられ、体には赤く染まる傷と、紫色に変色する肌を露わにしている女がいた。
ずっと泣いている女。
この子は、俺と同じ高校1年生の女。
そして、俺がまだ小さい時からの幼馴染で、高校に進学した事をきっかけに告白されて、彼女になった女。
どうしてこうなった?
何故、この子がこんなにも傷ついてる?
この子は悪くない。
悪いのは
こいつらだ。
足元には無数の人間が転がっている。
血反吐を吐き、歯を折られるまでボコボコにされた人間だった者達。
その中には、学生とハタチを過ぎた世間でいう社会人であったものもいるが。
いずれも不良と呼ばれる人間達。
つまり・・・
悪だ。
こいつらは、この大勢でたった一人の女を襲った。
相良「こうなって、当然だ。」
そうつぶやいた瞬間、倉庫の中へ紺色の制服に身を纏った警察官がなだれ込んできた。
女は警察官から毛布をかけられ保護された。
そして俺は・・・
警官「これは、君がやったのか?」
その質問は、あまりにも抽象的だった。
「これは」とは一体何を指しているのか?
襲われた女を言っているのか。
足元に転がるやつを言っているのか。
警官の目は、真っ直ぐに俺の目を凝視してくる。
「これは」とは、何のことなのか質問をすればいいのだろうが。
今は、ものすごく面倒臭かった。
相良「はい…俺がやりました。」
警官「午後10時32分、暴行の現行犯で逮捕する。」
警官の口から、淡々と言葉が出た後。
俺の両手には、黒光する鉄の輪、手錠がはめられた。
相良「は?」
意味が、わからなかった。
手錠は悪いことをした奴にする物じゃないのか?
俺は何も悪い事はしていない…
悪いのは、ここに転がっている不良達だ。
俺はただ、女を…
『香奈』を助けただけだ。
…
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