路地裏の花

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路地裏の花

路地裏に咲いた一輪の花 その花の名前すら知らぬのだが ただ一輪の白き可憐な花が路地裏に咲いていたのだ 晴れた日中すら陽の光も届かず薄暗くドブ臭さが鼻をつくこんな薄汚い路地裏に 時折猫が物凄い勢いで姿勢を低くし駆け抜ける やはり一目で薄汚れているとわかる野良猫のようだ それは薄汚れた鼠でも追って行ったのであろうか 表通りを歩く賑やかな大勢の人はこのような路地裏には目もくれず、いや敢えて近寄らないのだ 人の世は一歩踏み違えれば深い闇 敢えて誰もが目を背け楽しげに通り過ぎるそのひとつ違いの薄汚いこの路地裏になぜ君はただ燦然と咲いているのか 私のようなうらぶれた者や日陰者ぐらいのものだろうこんな暗く汚れた路地裏に足を踏み入れる者など どれもとうていまともな人間ではない 当たり前の人間なら通らないであろう危なげな路地裏に いつから君は咲いていたのだ いつまで君はそこにそうしているのだ 君は何を思ってそうしていたのだ おそらく君すら知らぬのだろう たまたまそこに咲いたのか 落ち着く先がその危ない匂いのする路地裏しかなかったのか たくさんの花が咲き乱れる花園ではよくなかったのか 君なら温室でもかまわないのではないか 君は此処が好きなのか 誰しも他者には打ち明けられぬ悲しみも恥だってあるさ だから深くは問わない どうだろうもし君さえ良ければ他にもたくさんの花が陽を浴びて咲いている花園へ案内したいのだが すまない、どうしても他人事のように思えないのだ もし必要ならその力を貸すつもりだが いつ何時どうなるかもわからぬ危ない路地裏が性に合うのならば無理強いはせぬが ただ どうして君はそこに咲いているのだ
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