どんぐりの招待状

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どんぐりの招待状

いつもわたしたちのためにありがとうございます。あなた様をわたくしども栗鼠の森へご招待いたします。きっといらしてくださいね 蒸かしたさつま芋が存外美味でつい食べすぎた次郎の助。 穏やかな陽射しと秋の風が心地よく、部屋で、ついうとうと、としておりますと、ぴしゃりと次郎の助の額に何か固いものがぶつかりました。 あいたたた。 あわてて次郎の助は飛び起きますと、まあるくかあいらしいどんぐりがひとつ転がっておりました。 はて、誰が投げ入れた。 次郎の助どんぐりを手にとってみますと小さなちいさな文字が書いてあります。 おやおや、これは。 さて、僕は栗鼠に何かしてやったものか、さっぱり見当がつきません。 まあ、せっかくのお誘いだ、焚き木を切り出すついでといってはなんだがお呼ばれしてみましょう。 そう言って次郎の助さっそく森へ出かけます。 田んぼのあぜ道を通り、祠の裏手の森へと入ってまいります。 では、いつもの通りブナの木の下にどんぐりを拾い集める次郎の助。 栗鼠が揃って食べられるようにと森へ入るたびブナの木の下へ落ちているどんぐりを集めてやります。 ぽんと手をうつ次郎の助。 こんなこと礼にもおよばぬのに。 なんと律儀な栗鼠たちだろう。 いつか笑顔の次郎の助。 そこへ栗鼠がやって来ました。 「次郎の助さん、よくいらっしゃいました」 かあいらしい栗鼠がぺこりとあたまを下げました。 「さっそくおよばれまいりましたよ」 「それでは、わたしについていらしてね」 「はいはい、左様で」 栗鼠についてどんどん森をすすみます。 澄んだ森の空気もいつもより尚更に清々しい次郎の助。 ときどき後ろを振り返り次郎の助、遅れていまいかと気遣う栗鼠。 「さあ、つきましたよ」 やがて拓けた広場のようなところへ辿りつきました。 「はて、この森にはこんな広場があったものか」 焚き木の切り出し、山菜採りと、この森はずいぶん詳しいつもりでいた次郎の助、少し首をかしげました。 やがてぞろぞろ数十を数える栗鼠たちが集まりました。 「あなたの優しい心づかいにありがとう」 声を揃えて栗鼠たち。 いやはや、照れて頭を掻いてみる次郎の助。 「栗や、私どもがこさえたぶどうのお酒を召し上がれ」 木の机の上には栗や瓶に入った赤い酒。 「せっかくですから、いただきましょう」 栗を片手にぶどう酒。 たいへん甘くよいお酒。 やがて栗鼠たちの舞と歌。 時を忘れて次郎の助。 そのうち酔って寝てしまいます。 とんとん とんとん 次郎の助さん起きてください次郎の助さん 肩をたたかれ目を覚ます次郎の助。 寝ぼけまなこで起き上がりますと、なんとそこにはさきほどまでの、かあいらしい栗鼠の姿はひとつもなく鍋やら釜やら菜切り包丁などを構えた大きな鬼がぞろぞろと次郎の助を取り囲んでおりました。
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