時計

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男は飾り気のひとつもない着るものにも拘らない潔い男であったのだが、最近になって急に腕時計が欲しいと言うのだ。装飾品など興味もなさそうだったのだがどうして腕時計を。些か腑に落ちぬものが既にそのとき私にはあった。急に何かに興味を持つというのは何も悪いことではない。しかし、なぜこの男と腕時計なのだという思いが強かった。男は派手な装飾のあるような時計ではなく正確で、言わば質実剛健、実用性に富む時計を欲しがった。 それから僅か数ヶ月後、男はこの世を去った。形見となった腕時計。たぶん男は自分に残された時間があまりないことを潜在意識の中で感ぜられていたのではないだろうか。そうでなければ別に時計でなく、指環や腕輪を欲してもよかったであろう。
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