檸檬と花梨

駄目な人よ

人間というのはじつに様々である。顔もそれぞれ似たり寄ったりはあるもののひとり一人みな違い、その声や、性格までじつにみな個性的である。小学生の夏休みの自由研究など昆虫や朝顔の観察などやめて人間の観察でもした方がよほどためになるのではないだろうか。そもそも人間なんて探さなくてもどこにでもいる。一番身近なところでは家の中に誰かしらおる。ひとり者であっても家から一歩外へ出たら誰かしら見知らぬ人でも行き交うものだ。その様々十人十色の人々は一様にしてみな駄目な人間なのです。駄目なところのひとつもない人間があると聞いたこともなければ出会ったこともない。私が世間知らず、見知が浅いのか自己分析はできぬのだが、一般に人間は駄目なものらしいのです。
さて、その駄目にもまた様々種類があるようで、酒癖の悪い男、男癖の悪い女や手癖の悪い子供など老若男女を問わず駄目なのです。まるきりいい人と評判の人、それは八方美人であり、とり方を変えれば八方美人などという言葉はけっして褒め言葉ではないのです。皮肉たっぷりの嫌味ともとれるではないか。一見、当たり障りなく人畜無害のようでいて対人関係の無理が祟り本人が精神薄弱になることもわかっているのです。精神薄弱が駄目かどうかは各々判断が別れるでしょうがけっしてそれは良好な状態にはないのではないか。そんな精神病を患ってまで他人によい面をしていい人でいたいのか。馬鹿馬鹿しい。しかし人間、嫌いな相手にも率直に嫌いであると宣言できずに付き纏われてしまう場合もある。これはこれで気の弱さが駄目な人間であるし、その相手方たるや自分が他人から嫌われているという自覚すら持てぬ白痴か何かのようでやはり雰囲気を読めぬ駄目な人間なのです。
では、どうならば駄目ではない人間なのだろうか。考えてみても何かしら人間の駄目なところしか思い浮かばないのです。大変に厳しい修行をされた僧侶であっても、やはり何かしら駄目であるから次々と厳しい修練をされておるわけでしょう。そうしたら我々凡庸な人間というもの駄目でなくてどうするといった按配工合ではないか。そして最もたちの悪いのが、自分の駄目さの自覚がないどころか、自分ほど素晴らしい人間はないと思い込んでいる人間。駄目を極めるときっとそんな愚かな人間なのでしょう。反面教師。人のふり見て我がふり直せ。自分の駄目なところに気がつき、いくらかでも直そうとする気づかいがあるうちはまだ大丈夫。駄目を極めるなかれ。