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十二月の街
私はあなたの後ろ姿をみえなくなるまで見送った
あなたは一度も振り返りもせず十二月の人ごみの中へ消えていった
ひとつ恋が終わった
ただそれだけのこと
よくあること
何度も繰り返してきたはずなのに
日が暮れて空気も冷たさを増す
白い吐息の向こうには金色の街
楽しげな人たちが行き交うひとりの帰り道
この恋の終わりがなぜそんなに痛み傷つけるのか
二十歳やそれくらいの歳ならひと晩泣いてやり過ごせただろう
私は三十四
この五年間という日々はなんだったのだろう
ブーツのつま先ばかりに目をやり歩きながら様々を想った
私は結婚をしたかったのだろうか
それほど彼を愛していたのだろうか
きっと答えは違う
もうこんな歳だから成り行きで結婚をするつもりでいたのだ私は
自分に問いかける
本当に愛していたのか
ただなんとなく居心地がよかっただけだろう
だから泪のひとつもでやしない
寂しさを互いに身体で埋めていただけではないか
大人の恋愛などそんなものなのかもしれないと初めて思った
全てに正解も不正解もない
それが人間の人生
でもこの別れは決して不正解ではないように思えた
賑やかな雑踏を過ぎ去りあまりひとけのない静かな住宅地を歩く
恋をして
結婚をして
家庭を持ち
人はそうして暮らしているのだろう
ふと自分が女の、いえ人間の番外のような気さえしてきた
灯りの点る家々を横目にようやく少しうらぶれた気持ちになった
窓からクリスマスの飾り付けが見えた
空は澄み三日月と小さな星が美しい夜空が広がっていた
たぶんもう恋などしない
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