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 コツコツコツ……。この薄暗い場所では、自身の足だけしか聞こえない。  数年前に改装工事が行われた南校舎とは異なり、こちら北校舎は、壁の塗装は剥げ落ち、あちらこちらにヒビが入っている。  陽光もあまり差さず、なんとなくほこりっぽいこの場所は、随分とボロボロになったのもだと思わざるをえない。  そんなことを考えながら階段を上っていくと、ようやく例のドアが見えてきた。少々錆び付いているドアノブを、思いっきり力を入れて回す。  ギィィィと鈍い音を立てながらドアが開くと強烈な光が差し込んできた。咄嗟に目を閉じる。  やっぱりこの眩しさには慣れないな。暗い所から明るい所へ行くのだから当たり前なんだけれども。  ゆっくり瞼を開き、徐々にその明るさに目を慣らす。  目の前に広がるのは雲一つない青空と、力強く輝く太陽。心地よい風が頬を撫でる。  さて、この屋上にはいつも主がいるはずなんだが……。困惑しながら辺りをキョロキョロとしていると、頭上から聞き慣れた声が聞こえてきた。  「ここだよ、(むぎ)」  「なんだ、今日はそこにるのか」  「ああ、たまにはキミを驚かせてみようと思ってね」  「いつも驚かせてばかりいるくせに、よく言うよ」屋上への入り口となっているドアの上にある、「塔屋(とうや)」と呼ばれる場所の上に彼はいた。  「まったく、ハシゴもないのにどうやって登ったんだい?」僕は、あくびをしている彼に尋ねてみた。  「フフッ……だってボクは『猫』だからね」  ――相変わらず、つかみどころのないヤツだ。  僕は彼のこういうところが嫌いじゃない。  「……そうだね。『青い宝石を飲み込んでしまった猫』」
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