家出

1/1
前へ
/93ページ
次へ

家出

「・・・よし、みんな、準備はできたか?」  アシュアは荷造りを完了させて、2人に尋ねた。  ありったけの食料、飲料と、服は最小限だけにして、あとはロープや懐中電灯など、足しになりそうな小道具たちを古びたリュックサックに、それぞれ詰め込んだ。 「ねぇ、ほんとに怒られない?すぐ見つかるんじゃ・・・。」  弱気なフィリーをよそに、 「ほら、さっさと行くわよ!」  マリゲルタに促され、フィリーは重い足取りで前に進んだ。  ヨーゼフ孤児院の周りには、塀などはない。  建物の周りに広々と草原が広がっているだけだ。  その分、視界は広い。  見張りの人に気付かれれば、一発アウトだろう。 「みんな、ほふく前進で行くぞ!」 「ええっ!体力ないってば・・・。」  フィリーの弱音をよそに、2人は地面に這いつくばって、草原を進んでいく。  あたりは、夕日が落ちて、薄暗くなっており、視界が悪くなっている。  アシュアたちにとっては、孤児院を抜け出す、絶好のチャンスだ。  アシュアとマリゲルタはフィリーを励ましつつ、引っ張りつつ、町へと足を運んだーー。  草原を抜け出し、町に着く頃には、すっかりあたりは真っ暗になっていた。  街灯が、どこか寂しげにゆらゆら揺れている。 「うわーん、さっきので服が土でどろどろだよ!」  フィリーは半ばべそをかいている。 「そんなことで泣かないのよ!これから宇宙人を探し出しつつ、ヨーゼフ孤児院の人に見つからないようにしなきゃいけないのよ。常に警戒のアンテナを張ってないと・・・。」  マリゲルタは、あたりを警戒しながら言う。  町へ出ても、あの時ほど人通りというものはなかった。  みんな、あの不可解な誘拐事件に怯えて、極力外に出ないようにしているのだろう。 「まず、被害者の家族たちに話を聞いてみよう。なにか掴めるかもしれない。」  アシュアは、事前に調べておいた、被害者の家の住所を取り出し、歩みを進めた。 「な、なんだか人が全然い、ないって、へ、変なかんじ、だ、よね?」  フィリーの言葉にアシュアはクッと笑った。 「おいおい、震えすぎだろフィリー!お化け屋敷に来てるわけじゃあるまいし、堂々と行こうぜ!」 「・・・お化け屋敷の方が、まだマシだ・・・。」  フィリーが言った瞬間のことだった。 「うわぁーーーーー!!!!」  すぐ側の町角から、男性の凄まじまい悲鳴が聞こえた。  3人は顔を合わせ、声のする方へ駆け出したーー。  
/93ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加