無力

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無力

「・・・町に出掛けられたらいいんだけどな。」  アシュアは、ぽつりと呟いた。 「えっ、でも、町に出掛けれるのは年に数回だけで、しかも限られたところだけじゃないか。」  フィリーが口を挟むと、 「あんたは黙って宿題やってなさい!」  マリゲルタの言葉の矢が飛んだ。 「先生にお願いして、町の図書館に寄るようお願いしてみる?」 「・・・そうだな。言ってみる価値はある。」  アシュアは力強く、頷いた。  オレの父さんと母さんを殺した宇宙人を敵討ちし、弟をヤツから取り返す。  堂々と目標は掲げたものの、これを達成できるか、全く想像がつかない。  この世界に、宇宙人を信じている人は少ない。  その上、人間に危害を加える宇宙人を信じる人は、もっと少ない。  いや、でもオレは見た。見たんだ。  あの顔は一生忘れないだろう。  大きな瞳は何を考えているか、全く読めなかった。  青白い体は、人間と同じ皮膚か。  とにかく不気味で、なんともいえないオーラを放っていたことは覚えている。  ・・・・・・悔しい。  ギリリ、と歯を噛み締める。  警察や人々に信じてもらえなかった時、オレが感じた悔しさは忘れられない。  もっと自分に知識があれば。  なにか証拠があったら。  何度、思い返したことだろう。  ーーでも、何もなかった。    そこには、無力な自分しかいなかった。 「寝れないの?」  マリゲルタの言葉でハッと、アシュアは我に帰った。  ヨーゼフ孤児院に入ってから、夜はずっとこんなことばかり考えてしまう。 「ちょっと考え事してただけさ。」 「ねぇ、アシュアの弟ってどんな子だったの?」 「・・・え?」  突然の質問にアシュアは驚く。 「あなたの話を聞いてから、ずっと疑問に思ってるの。どうして、宇宙人はあなたの弟をさらったのか、って。  宇宙人が私たち人間に何か手を出すなんてこと、今まで聞いたことなかったから。宇宙人にとって、なにか、あなたの弟は特別だったんじゃないかなって。」  マリゲルタの言葉にアシュアは思わず納得させられた。 「確かに、マリゲルタの言う通りかもしれない。 ・・・でも、オレの弟は、別に他の子と変わりなかったよ。ただ、奇妙なことが、あったな。」  オレはマリゲルタの話を聞きながら、ふと、思い出した。      
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