・・・再び

1/1

12人が本棚に入れています
本棚に追加
/93ページ

・・・再び

「いやぁ、本の見過ぎで、目がカチコチだ。」  フィリーは図書館から出て、ずっと目を押さえている。 「普段読まないからそうなるのよ。」  マリゲルタは相変わらず、フィリーに言葉の矢を飛ばしている。 「とりあえず、みんなのメモをまとめるために、帰るか!先生も待ってるだろうし。」  アシュアは2人に言った。  空はもう薄暗くなって、あたりには街灯が灯っていた。  3人は孤児院に帰る途中、町角でうごめく2つの影を目撃した。  暗くてよく見えないが、ひとりがもうひとりを取り押さえているように見えた。 「ケンカかな?」  アシュアは2人にコソッと尋ねた。 「・・・かもね。怖そうだし、ここはスルーするのがいちばん・・・」 「ちょっと、あんたたち何してるの?!」  マリゲルタは、フィリーの言葉を遮って、2つの影に近づいていった。 「げ、マ、マリゲルタ・・・。」  アシュアとフィリーもしぶしぶ、マリゲルタの後を追うことになった。  2つの影に近づくにつれ、分かった。  ケンカではない。  ひとりの男性が、もうひとりの男性に襲われているようだった。  襲われている男性は、口を塞がれていて、うーうーとしか、言えていなかった。 「フィリー、誰か近くにいる大人を呼んできて!」  アシュアはフィリーに言った。 「わ、分かった!」  フィリーは震える足を踏み出して、夜の町に駆け出した。 「やい、その手を離せ!」  アシュアは勇気を出して、男性に向かって叫んだ。  アシュアの声に気づいた男性は、くるりと振り返った。  ーーー・・・・・・ドクン。  ・・・なんだろう、この胸のざわめきは。  その男性の顔は、別に普通なのに。  どこにでもいそうな顔なのに。  ーーー・・・・・・なんで、なんで、こんなに、男性の瞳と、あの日見た宇宙人の瞳が・・・・・・ーーー     ・・・重なるんだ。  アシュアたちの存在に気づいた瞬間、その男性は煙の如く・・・ 「・・・消えた。」  アシュアは、思わず言葉が漏れた。 「被害者の人もいない。一瞬で消えたわ。どこかに隠れたのかしら?探すわよ!」  マリゲルタは、暗い町角に、人の姿を隈なく探している。 「ちょっと、アシュア!なに、ぼーっと突っ立ってるの?一緒に探しなさいよ!」  マリゲルタの声に、アシュアは我に帰る。  その時、フィリーと何人かの大人が走ってやってきた。 「・・・はぁはぁ、アシュア!連れてきたよ!・・・あれ?さっきの人は?」  フィリーは息を切らしながら、アシュアに聞いた。 「・・・消えた。」 「・・・・・・え?」  町角に残されたのは、動揺を隠せないアシュアと、必死に探すマリゲルタと、困惑した顔のフィリーと、苛立った顔の数名の大人たち、だけ、だった。      
/93ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加