OneクイックLover

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「どうしたの?、具合悪い?」 由佳が心配そうな声音で、覗き込む様に話しかけてきた。 そりゃ、そうだ。 笑って合図を送ってきた相手が直後、顔色急変して俯いたら、私だって同様にする。 「お腹痛いの?」 スマホを握りしめた手が、無意識にお臍のあたりへ移動していたせいか、由佳が私の腕を支え小声で聞いてきた。 「平気…大丈夫」 私が視線を落としたまま、由佳へ言葉を返した時、彼が通り過ぎた。 何も起こらない。 ホッとすると同時に、振り返りたくなる心境を数秒耐えた。 当たり前か。 例え私に気付いてたとしても、何も起こりようがない。 顔写真と萌え処だけアップしたマッチングアプリ。 その他の個人情報は載せない、教えないのがルール。 待ち合わせ場所は、各都道府県に3ヶ所ずつある。自宅や職場から近い場所を利用するのもよし、わざと越境して己のテリトリーから遠い場所で会うのもよし。 会ってみたい人の写真をクイックして、日時や場所をリストアップすると、登録した自分の顔写真と記入した萌え処が相手に表示される。先方も気に入ってくれ、都合が合えばリアルで逢う流れだ。 事前に言葉のやりとりで『探り』を交わせない分、出たとこ勝負。 お互い待ち合わせの日時だけ、アプリに位置情報を許可する。さすれば、どんなに人混みでも相手がどこにいるのか分かる。 出逢った後は、その二人次第。
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