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そんな風に何回か交わった後、二人で寝落ちした。先に目覚めたのは馨だった。
健やかな寝息をたててる、長い睫毛の彼を見つめ、戸惑いを禁じ得なかった。
ここまで自己解放できる相手に、マッチングアプリで会うのは稀だ。
マズイな…
彼女は静かに身支度し、部屋を出た。
諸々思い出し、馨は身震いする。
「まっいいか。それより大丈夫?震えてるよ?」
肩を掴んでいた手が、彼女を労る様に動く。馨の強張った視線が、彼の顔から手に移る。
彼の細長い指は、彼女を掻き乱す。
あの日その指は、馨のナカに根元まで埋まった。
「…大丈夫、それより手を離して」
「あ、悪い」
己が促したのだから、去る温もりを惜しむ謂われは無い。
馨は今更ながら人目を気にして、サッとホールを見渡す。空腹第2陣は未だ到着せず、二人だけだ。
「えーと、とどろきかおる、さん?」
不意に、彼が馨の名前を口にする。
馨の胸元で揺れるセキュリティカードに、彼の目線が行っていた。
身バレ!!
馨は慌ててネーム部分を隠したが、時既に遅し。名前が知られたら、容易に特定出来る…だが逆に彼の名前も知れた。
『遊佐彬』
目の前のホルダーカラーは、ゲストを表している。
「俺しばらく此処に通うから、宜しく!」
そう爽やかに言い捨て、彼が食堂へ踵を返すと同時に、到着したエレベーターから人波が溢れた。
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