OneクイックLover

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彼の後ろ姿を見ながら茫然と立っていた馨に、エレベーターから降りてきた知り合いが何人か声をかけてきた。 上の空で返答し、無人になった籠に足を踏み入れる。ボタンを押せば、目的階までの下降が始まった。 感じる浮遊感は、エレベーターのせいだけではないかも知れない… あれっきり、彼と会っていない。 共用部で度々遭遇するのでは!? という懸案は、杞憂に終わった。 アプリを開きスクロールすれば、笑顔の彼はまだいるのに。 いつ又バッタリ会い、声を掛けられるかと身構えてた自分が馬鹿みたいだ。拍子抜けしたついでに、『遊佐彬』と検索してみた。彼は最近人気の設計士らしい。 そういえば以前、由佳が他の階のテナントは大々的にフロアーのレイアウトを変更する計画だと話していた。 オープンスペースを多用し動線が楽に、おまけに社内の雰囲気も明るくなった。と方々で実績をもつ有名人を起用するんだって、羨ましい!と身をよじっていた。 何故そんなに彼女が詳しいかは、生来の社交性で得た情報+上層部のオジサマと付き合ってるからだ。 相手は既婚者なんだから止めなと言っても聞かない。そのくせ週末は会えなくて寂しいと最近、違う支社にいる同期にチョッカイを出している。 彼女は、私が使うマッチングアプリを不信がってる。不特定多数と会ってリスクがあると。 私からしたら、既婚者との交際や社内恋愛の方がリスク大だ。
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