12人が本棚に入れています
本棚に追加
彼の後ろ姿を見ながら茫然と立っていた馨に、エレベーターから降りてきた知り合いが何人か声をかけてきた。
上の空で返答し、無人になった籠に足を踏み入れる。ボタンを押せば、目的階までの下降が始まった。
感じる浮遊感は、エレベーターのせいだけではないかも知れない…
あれっきり、彼と会っていない。
共用部で度々遭遇するのでは!?
という懸案は、杞憂に終わった。
アプリを開きスクロールすれば、笑顔の彼はまだいるのに。
いつ又バッタリ会い、声を掛けられるかと身構えてた自分が馬鹿みたいだ。拍子抜けしたついでに、『遊佐彬』と検索してみた。彼は最近人気の設計士らしい。
そういえば以前、由佳が他の階のテナントは大々的にフロアーのレイアウトを変更する計画だと話していた。
オープンスペースを多用し動線が楽に、おまけに社内の雰囲気も明るくなった。と方々で実績をもつ有名人を起用するんだって、羨ましい!と身をよじっていた。
何故そんなに彼女が詳しいかは、生来の社交性で得た情報+上層部のオジサマと付き合ってるからだ。
相手は既婚者なんだから止めなと言っても聞かない。そのくせ週末は会えなくて寂しいと最近、違う支社にいる同期にチョッカイを出している。
彼女は、私が使うマッチングアプリを不信がってる。不特定多数と会ってリスクがあると。
私からしたら、既婚者との交際や社内恋愛の方がリスク大だ。
最初のコメントを投稿しよう!