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夏休みの終わりまで、私はほとんど毎日のようにユキちゃんの絵のモデルを務めた。
指定されたポーズを取ったり、鳥獣戯画のカエルを模したお面を着けたり、描きかけの絵を放って水族館に連れていかれたり、そこで見たアデリーペンギンの鳴き真似をせがまれたりしながら、目まぐるしく日々は過ぎていった。
できあがった絵は何枚もあったけど、ユキちゃんは最初の予定通り、私がジャージー牛を被った時の絵を部活の展示に出すつもりのようだった。
絵には牛の頭と人の体を持った人物が描かれていて、両手を体の前で重ねた姿勢を取っている。モデルをした時にも思ったけど、ダ・ヴィンチの「モナ・リザ」そっくりのポーズだ。
ユキちゃんはその絵に「模倣された表象」というタイトルをつけた。奥深い題名だと顧問の先生は感心していたけど、私はユキちゃんに耳打ちされて本当のタイトルを知った。
「『モォーナ・リザ』です。牛だけに」
朝露のように淡くきらめく声で、ユキちゃんはしょうもない種明かしをささやいた。
内容はくだらないのに、耳をくすぐる音色はどきどきするほどきれいだった。その落差が可笑しくて、私は弾けるように笑い声を上げた。
「こういうの、思いつくと描きたくなっちゃって。似たようなアイデアが他にもあるんですけど――」
かなえ先輩、とユキちゃんが私の名前を呼ぶ。
その先に続く言葉も、その言葉を自分が拒まないことも、私はもう分かっている気がした。
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