完成!防衛システム!

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完成!防衛システム!

 二〇XX年―― 「おめでとう諸君!」  カメラの前で、司令官が乾杯の音頭を取る。  この数年の功績をたたえ、パーティーを開こうと言い出したのはこの司令官だ。 「我々が〝彼等〟の事を警戒を発しだして、早、数年……ついに悲願だった、防衛網が完成しようとしている。  〝彼等〟に、人類の英知を結集した我々には、勝てないことを思い知らせようではないか。  〝彼等〟の侵入を許さないための、月の第一防御基地(ライン)が常に地球圏への侵入物を監視できるようになった。また、要である航宙艦の建造は、予定通り進んでいる。  地球の赤道の遥か上空……静止衛星上に建造した第二防衛ラインは、技術陣の生々ならぬ努力の結晶ともいうべき電磁砲を据え置き、侵入物を容赦なく撃ち落とすはずだ。  そして、大気圏内に近づこうモノなら、第三防衛ラインである地球周回軌道を縦横無尽に飛び回る防衛衛星からのミサイルが、迎え撃ってくれるだろう。  それでも〝彼等〟がやってくるのであれば、第四防衛ラインである我々が、迎え撃つ……」  司令官の話が長い。  コップに注がれているビールの泡が消えそうだ。  しかし、隊員の数名が騒ぎ始めている。  話が長いことにしびれを切らしたのか? いや、そうではなさそうだ。 「司令。それ以上は機密事項です。慎んでください」  機密事項……そうだ。  司令官が口にしているのは、地球の防衛システムの概要だ。  折角の異星人(インベーダー)迎撃システムをさらけ出して、どうする気なのだ。  もしも〝彼等〟に知られては、元も子もない。  21世紀の後半。我々は地球が〝彼等〟……通称、インベーダーに狙われていることを知った。そのために英知を結集して、作り上げた防衛システム。それをお喋りな司令官が、話してしまっている。 「インベーダーが、地球に潜入したという報告はない。大丈夫だよ」  少々、司令官は……自信に満ちているというよりも、何というか、お気楽に構えている。  正直言えば、この人はいわゆる報告書にサインをするだけの人だ。 「情報が漏れることはない!  では、乾杯しよう……諸君。我らが防衛システムの誕生に、おめでとう!」  ―― 「馬鹿な地球人だ。これで地球の防衛システムが分かったな」  青い皮膚の〝彼等(インベーダー)〟の司令官が、パネルに向かって呟いた。  この日、彼等(地球人)が防衛システムの完成を記念して、パーティーを開いているという情報が入った。そこで、ネットワークに入り込み、記録のために録画しているカメラから、情報を引き出すように仕掛けたのだ。  案の定、アルコールの回った地球人はペラペラと、防衛システムの概要を喋ってくれた。 「こういうのを、彼等(地球人)では何というか、聞いたことはあるかね?」  インベーダーの司令官が、近くに立つ参謀に問いかけた。 「さあ、なんでしようか? 司令殿」  彼は、分かっていたがワザと分からないふりをする。 「だそうだ」  得意げにインベーダーの司令官は応えた。 「なるほど、小官は初めて知りました」  彼は、持ち上げることがうまい。  このインベーダーの司令官は、自分が指揮をしていると思っているが、実際は下の者がいろいろと手はずをこねくり回して、おだてられているのに気づいていない。 「では、これが地球侵略の計画書になります。ご確認ください」 「なるほど。極点から攻めるのか……」 「はい。とっととやってしまいましょう。ではハンコを……」  ―― 「全く馬鹿なインベーダーだ。  カメラの前で乾杯しているのが、役者とも知らずに……」  本当の地球防衛司令官が、そう呟いた。 「まあ、我々の手はず通りに進行しています。あちらの方でも準備は進んでいます」  彼の前にいるインベーダーがそう答えた。 「とっくに政治的に解決していることを……血を流さないと解らないのか。彼等は……」 「血の気の多い連中は、どの星でもおります。うちのそういう連中は、本当に血を流さないと懲りないですから……」 「では、手はず通りに……」 「お互いに……」  そういって、二人は握手した。  インベーダーの習慣で、握手は決闘の合図だとも知らずに……。  ――本当にだ……。 〈了〉
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