触れないで

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触れないで

「あなたに触れられない…」 カウンターテーブルに置いた手に、オーナーの手がそっと乗せられる。 「っ…」 「俺はあなた自身にも、あなたの心にも触れたい」 真っ直ぐで怖い、自分が熱くて怖い。 咄嗟にオーナーの手から逃げ出す。 「俺に…俺に、触れないで…」 【オーナー!】 「ほら、呼ばれてる…行って…」 オーナーは軽く溜め息を吐き、行ってしまった。 俺は急いでコーヒーを飲み干して、逃げるように店を出た。 その日からlimeも来なくなったし、カフェにも行ってない。 これは駆け引きではなく、終わったんだ。 「そりゃそうだよな…俺が拒絶したんだ」 喫煙所で、やめていたタバコに火をつける。 『おや、名梨くん。珍しいね、こんなとこで』 「石山課長、お疲れ様です。やめてたんですけどなんとなく」 『何かあったのかい?』 「課長、奥さんに許可取って今夜付き合ってくれませんか?花金にすいません」 石山課長の奥さんは、俺の同期のかわいい女性だ。俺がゲイなのも、課長に手を出さない事も知っている。 『名梨くんと飲みなんて久しぶりだ。嫁に妬かれるな。アイツは君のファンだからな』 「はは、よろしくお願いします」
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