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「ちょ…ちょっと、待ちたまえ!今言った事は、全て嘘だよ。自分でも、どうかしていると思う…。肝心な時になると、いつも心とは反対の事が口から出てしまうんだ」
彼が、去っていこうとする足を止めた。振り返り、驚愕の表情で僕を見ている。
「そ…そんなに変かい?僕が、素直な気持ちを口にするのが…。だけどね、ハインリヒ。僕はいつだって、君の事を見ていたさ。僕は、中庭で遊ぶ君を見るのが好きだ。学校にいる君が、蝶の収集をする君が。ガラスのように、透明で綺麗で。でも、粉々に砕け散ってしまいそうで…。そんな君を見ていると、僕と言う人間がとてもちっぽけなものに思えてくる。だけど同時に、とても大きな存在になれる気がするんだ。好きだよ、ハインリヒ。君をひと目見たその日から、変わらずに今でも好きだ。きっと、君がいなくなってしまってからも…ずっとずっと」
今の自分を鏡で見たら、きっと林檎のように真っ赤な顔をしていたんだろうな。彼に見せるのが、とても恥ずかしかったけれど…。でも、この期に及んで躊躇はしていられない。
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