エーミール〜こいにおちて〜

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 時に、僕の家から中庭を挟んで一人の少年が住んでいた。ここでは、仮にハインリヒ・モーアと名付けておこうか。  彼は、あらゆる意味で僕と反対だった。  黒い髪、陽によく灼けた肌…。僕のように勉強が出来る訳でもなければ、態度が模範的な訳でもない。だけれど、中庭の向こうで遊んでいる彼を見ると…。  とても楽しそうで、キラキラと光輝いて…。何だろう。かなわないなあ、美しいなあ。なぜ僕は、ああでないのだろう。そんな気分になる。  一言で言えば、恋をしていたのだよ。何だよ、悪いかい?彼が、僕の事を「悪徳」と捉え憎んでいた事は知っていたけれど。  そうだろうね。鏡を見ては、自分自身でも思ってはいたさ。どれだけ大人たちが褒め讃えようと、何て気味悪く妬ましい存在であろうと…。  ああ、ちなみに蝶の収集について「付き合いの延長」だなんて言ったけれど…。正直に言うと、これも彼に影響されてだよ。周りの仲間と同じで、彼も蝶の収集に並々ならぬ熱情を燃やしていたのだね。
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