エーミール〜こいにおちて〜

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 『流石だ、ハインリヒ。獲物の希少性だけではないよ。見事な展翅技術だ。こんな物を出されては、僕のコレクションなど霞んでしまう…!』  言うんだ。彼に。この期待に満ちた顔を、曇らせてはいけない…!  ああ、だけれど。僕と言う人間は、なんて駄目なのだろう。喉元までに出た言葉と、珍しい獲物を前にした生唾を同時に飲み込んで…。僕の口は、気持ちとは裏腹にこんな事を語っていた。  「ふん。確かにコムラサキの希少性は認めよう。ただし、肝心の展翅技術はまだまだ甘いね。それに、この脚の欠損は何だい?これでは、せいぜい20ペニヒ程度だね」  ああ、またやってしまった!どうして僕の口は、こんな事しか言えないのだろう。本気で、自分の口を縫い付けてしまいたい。  この後彼が帰ってから、しばらく自分のベッドで枕を濡らした事は置いておこう。  案の定、僕の言葉に彼は気分を害し…。それ以降、二度と僕に獲物を見せる事はなくなった。
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