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「あのな、お前。こう言うことはな、きちんと否定してやるのが、人ってもんだ。それがこの仏様にとっても、また生きてる人間、彼女や我々にとっても救いになるってもんだ」
「……はあ」
「まあ、まだ若いお前には、解らんかもしれんがな」
私はそれ以上、私の人生観、恋愛感を披露しなかった。所詮は他人事だ。実際体験してみなければ、理解できないこともまあ、あるっちゃある。
こと男女間において、恋愛観の相違点、特にその温度差ってやつは、活火山の溶岩と永久凍土のマンモス象くらいの差がある。そう言うところだと、新米婦警に向かって話す代わりに私は、
「所詮、男って奴は馬鹿ばっかりだよ。いつの時代も、老いも若きもかわらず、な」
そう言い残し、現場の処理を新米に任せて部屋を出た。非常線を張った外側の、近所から湧いて出てきた野次馬を掻き分け、人の少ない電信柱の影に立った。
そこで一本のタバコに火をつける。一服だけ、深く吸い込み空へと向かって吐き出す。普段は吸わない私が、死者に手向ける、線香代わりの紫煙だ。
私は電信柱にタバコを擦り付け、現場に戻る。新米が何やら、私を呼ぶ声がしたからだ。
幕間、了
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