12人が本棚に入れています
本棚に追加
ミーへ
大都会に浮かぶ森のような定禅寺通りの欅並木は、深碧色の豊潤な葉叢で溢れていた。仕事を終えたオレは、いつものようにビルの合間の欅並木を見上げ、地下鉄の勾当台公園駅に向かって歩きだした。夜の帳をむかえた街は、ビル群の照明や車のヘッドライトが乱反射し、あらたな喧騒がはじまっていた。
国分町通りとの小さな交差点を渡ると、道端に街灯の仄かな明かりに照らされて、ほんとに小さな白い仔猫が1匹鳴いていた。
驚いた。
なぜ人や車の往来がさかんな道路に、ぽつんと小さな仔猫がいるのだろう。道端の白線のすぐ内側あたりで小さな声で鳴いている。
──ミィミィミィ。
このままでは車に轢かれてしまう、とにかくオレは白い仔猫を抱き上げようと思った。
オレを見上げて鳴いている小さな白い仔猫。その純真なひとみに吸い込まれそうになった。
そっと手を差し伸べた。
すると仔猫は、突然、オレの指に噛みついた。
──イタッ!
激しい痛み。薬指が血で滲んでいる。とても小さな口だけど、歯はしっかり生えていた。
この子は、小さくても野生の生き物なんだ。
しかもとても怯えている。
最初のコメントを投稿しよう!