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オレはポケットからハンカチを1枚取り出し、それを仔猫に噛ませた隙に素早く抱き上げた。
少し震えている。
──こわくない。
こわくないよ。
白い仔猫は、こんなに小さな身体でも温かく小さな呼吸を繰り返していた。
──生きている!
こんなに小さくても、
懸命なんだ!
オレは、壊れそうな小さな命を包むように抱きながら、ゆっくり歩きはじめた。ちょうどすぐ近くに、少し前に古くなった雑居ビルが取り壊された小さな空き地があった。
──ここなら。
あたりは真っ暗だったが、空き地の奥にハンカチで包んだまま小さな白い仔猫をそっと置いた。
──これでとりあえず安全だろう。
すると偶然なのか、空き地の奥の古い塀の上から1匹の白い猫が、じっとこちらを睨んでいた。
──母猫?
白い猫はじっとしたまま動かない。
──母猫なら大丈夫か。
オレは、ハンカチの上の白い仔猫を見つめた。
──ミィミィミィ。
──元気でな!
白い仔猫の小さな鳴き声を聴きながら、暗晦な空き地をあとにした。ビルの隙間から、大都会の明かりに仄かに浮かぶ欅並木がちらっと見えた。薄められた夜空には、小さく煌めく星たちがあった。
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