有限の砂

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「これ、お前さんにやるね」 「はい?」 差し出されたのは、手乗りサイズの砂時計だった。 ひょうたん型のガラスの中に、白い砂が流れているのが見える。 ガラスを覆う土台の部分は真鍮で作られ、ずいぶん古めかしい代物に思われた。 「いただけません!こんな高価そうなもの」 砂時計の相場はわからない。 だが作りはしっかりしているし、少なくとも数千円で買えるものではなさそうだ。 「いや、持っていきなさい。僕にはもう必要のないものだから」 老爺は、悠介の手に砂時計を押し付けようとする。 「ただの砂時計じゃぁないよ。命の受け渡しができるのさ」 「はぁ?」 妄想癖のある人だったのかと、少しこわくなる。 「まあまあ、こうやってねーーー」 爺さんは、右手で悠介の手を握り、左手で砂時計を器用に回してみせた。 途端、悠介は妙な倦怠感に襲われ、膝をつきそうになった。 心臓が痛いほどに波打ち、呼吸が浅くなる。 「簡単なものさ。僕は砂時計をひっくり返す。そして、お前さんの手に触れる。するとね、お前さんの余命の半分を、奪うことができるのさ」 砂時計は上から下へ、さらさらと流れ落ちていく。 降りつもるそれを見て、怖気(おぞけ)が走った。 「まあ、お前さんの寿命を奪うほど恩知らずじゃないよ。このまま、再び砂時計をひっくり返せば、何も無かったことにできるからね…」 老人は素早く砂時計を元に戻し、悠介の手を離した。 息苦しさが、和らいでいく。 「どうだね、すごいだろう。これをお前さんにやるね」 先刻と同じ台詞(セリフ)とともに、砂時計を渡される。 「い…いらない、そんな不気味なもの」 「役に立つことがあるかもしれんよ」 「だって、大切なものでは…?どうしてそれをわたしなんかに?」 「さっきも言っただろう。僕にはもう必要ないものなんだよ。それにね…」 老爺のまなじりの皺が濃くなる。 「君はなんだか、若い頃の僕によく似ている」
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