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悠介は急いで自宅へ戻り、記憶を辿って例の物を探し当てた。
万が一にも妻の手に触れないよう、念入りに梱包していた。
丁寧に、ビニールの緩衝材を広げていく。
砂時計は、悠介が最後に見たそのままの姿で現れた。
そっとテーブルに立ててみる。
当たり前のように、白い砂が上から下へ、尽きることなく降りつもっていく。
「菜々にこれをひっくり返させる…。それで、俺が菜々の手を取れば、あいつはもう少し生きられるんだよな…?」
そう、悠介の余命の半分と引き換えに、菜々はしばらく生きながらえることができる。
(だが、そう都合良くいくか?病は良くなるのか?万が一、がんが治らず寿命だけ伸びたら…苦痛の日々が続くことになるんじゃないか)
ならいっそ、菜々の寿命を奪ってしまえばどうだろう?
痛みも苦しみも、短期間で終わらせられるなら、それもいいのではないだろうか。
「いい…わけがない…」
呟く声が震えた。
「菜々の命を貰うなんて、できない」
あまりに恐ろしい考えに、頭の中が真っ白になった。
喉の奥が焼き切れそうだ。
菜々に己の命を分け与えるにしろ、反対に彼女の命を貰い受けるにしろ、悠介1人で決めて良い問題ではなかった。
当事者の菜々を置き去りして、勝手な真似ができるはずなかった。
悠介は虚ろな表情のまま、砂時計だけを片手に家を出た。
菜々の顔が見たかった。
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