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吉原の花魁を相手にするわけでもない。岡場所の女以下の、たかだか、辻に立つ女、なのに……。
小さめに結った本多髷に、袖が長めの羽織りと博多帯、腰には金華山織りの煙草入れ、白足袋と、八幡黒の鼻緒――。
誰もが認める、羽振り良い風体。
それなのに銭が無いとは情けない。
いや、こんな格好など、ぱっと、宙返りすればすぐできる。
そう――、佐吉は人ではなかった。
狐である。
だが、狐とはいえ、晦日の夜には、関東稲荷総司、王子稲荷へ参拝できる高位の身分。人に化けるのも朝飯前の、強い念力を持っている。
銭だって、その気になれば、小石か木の葉を使えば……。
しかし、それは一晩明けると、使い物にはならない代物になる。
まやかしの、偽銭を使ってまでお里を手に入れようと佐吉は、思ってはいなかった。
お里は、物ではない。佐吉の中では、かけがえのない女だからだ。
だが、男から、銭を受け取らなければならない、お里の事情も汲んでやりたい。
自分が、十分に銭を与えられれば、お里は身を犠牲にしなくても良いのに……。
日々、想いと現実との板挟みで苦しんで――、好いた惚れたごときにまどわされ……、立ち往生しているとは、情けない話である。
と――、先の辻で、うわあっと、おおぎょうな男の声があがった。
追うように、お里の馬鹿笑いが響いてくる。
捕まえた客と、ふざけあっているのだろう。
指をくわえて見るしかない佐吉の胸は、きりきり締め付けられた。
銭があったら、本物の銭を持っていたら――。
お里があんな下世話な笑い声をあげ、客の気を引くこともない。
いや、毎晩辻に立たなくとも……。
でも――。銭があっても……。
佐吉は、あっと息をのむ。
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