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第一話 幽霊学生
見上げれば、『彼』がいた。
青白い顔が暗闇に浮かんでいる。女と見紛うような美しい顔をしていた。長い睫毛が、頬に繊細な影を落とす。
詰襟の学生服に身を包んだ彼は、虚ろな黒い目で僕を見下ろしている。
――ぽたり。ぽたり。
落ちてくる滴が、僕の冷たい頬を濡らす。
赤黒い球は一瞬の熱を伝え、飛沫となって鉄錆の臭いを散らした。
彼の白いシャツの腹の所に、大きな赤い花が咲いている。溢れた血で真っ赤に染まっていた。
……そうだ。
腹を刺されたのだ。
冷たいナイフは皮膚を裂き、肉を貫き、ついには臓腑へとたどり着いた。
血が溢れて止まらなかった。
熱が、魂が、零れ出ていくようであった。
氷水を流し込まれたかのように、全てが凍えていった。
――ぽたり。ぽたり。
落ちてくる涙が、青白い頬を濡らす。
見下ろせば、『僕』がいる。
黒く濁った硝子玉の目に映るのは、『彼』の顔。
『僕』と『彼』は、鏡に映したように、そっくりの顔をしていた。
――ああ、そうか。
僕は気づく。
これは、『僕』だ。
僕は、死んだのだ。
『僕』の顔を見下ろしながら、『彼』は冷えた心でそう思った。
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