1.プリンセス戦士百合香 爆誕!

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1.プリンセス戦士百合香 爆誕!

「それでは、次のご予約は二週間後、15日の水曜日になります」 常連の鈴木のおじいさんが診察券を手に取ると深々と頭を下げた。 このおじいさんは少し腰が曲がっているけれど、笑うと目が三日月のように細くなる。きている服も上品だ。きっとお金持ちなのだろう。 私も深々と頭を下げ返す。 古来からこの礼をする行為はお互いにお互いを敬っているという意味があると、小学校の先生が言っていたのを思い出す。 今私と鈴木のおじいさんはお互いに敬い合っているのだ。 次の瞬間、鈴木のおじいさんを蹴散らすように強引に人が目の前に現れた。 林のおじいさんだ。 この人はいつも、薄汚れた同じ服を着ているし、いつも目が吊り上がっているし、いつも口が臭い。 鈴木のおじいさんはよろけて倒れそうになったけれど、林のおじいさんは基本的に他人なんか気にしない。 顎を少し動かして、私に診察券の存在を教えると「早く受付しろ!」と吐き捨てた。 心の中で中指を立てた。 無理やり笑顔を表出する。 お年寄りは海抜0メートルの海面のように腰が低い人と634メートルあるスカイツリーのように高圧的な人に綺麗に二分される。 中間層はどこかにはいると思うが、私が医療事務として勤めているハッピー歯科医院にはいない。 むしろスカイツリー側の人が多い。 何故だろう。 まぁ、それは今はおいておく。 世の中の道理としてら腰の低いお年寄りの方が好かれるし、優しくされる。 どうして林のじいさんは78年生きてきてそれをわかっていないのだろう。 林のじいさんの診察券を無言で受け取ると、奥に追いやられた鈴木のおじいさんと談笑する。 「今日はいい天気で、お散歩日和ですね」 「ええ、今日は駅の反対側の公園まで行くよていです」 「それはいいですね」 心からの笑顔で「お大事に」と鈴木のおじいさんを見送った。 林のじいさんは羨ましそうに私を見ているが、見なかった事にした。 お年寄りはみんな寂しい、話しかけて欲しいのだ。お年寄りがよく来るハッピー歯科医院に勤めている私は、そのことをよく知っている。 すると、また患者さんが入ってきた。今度は五十代の主婦の谷田さんだ。 この人もちょっとしたことでクレームをつけ、騒ぎ出す面倒な患者だ。 小さな息を吐くとまた営業スマイルを浮かべた。 勤務先ラッキー歯科医院の受付で安い笑顔を振りまく、そして会計などの事務を行う。 これが私の仕事だ。 鈴木のおじいさんが玄関で靴を履き替え、出口の扉に手をかけた時だった。 突然の轟音が聞こえ、歯医者の南側面の壁が何者かに寄って崩され、外の大通りが丸見えになった。 唖然とすると、体長五メートルはありそうな鉛色のロボットが右アームを動かし、鈴木のおじいさんを捕まえると、一気に三メートルぐらいの高さまで持ち上げた。 他の待合室にいた患者さん達は悲鳴を上げて上空を見上げている。 鈴木さんの顔は青ざめていて、今にもぽっくりいきそうだ。 そしてロボットは左アームで待合室で腰を抜かしていた林のじいさんを捕まえて、鈴木のおじいさんと同じ高さで持ち上げだ。 林の爺さんは「助けてー」と叫んだ。 もちろん、誰も助けられる人はいない。 私は大きく息を吐いた。 「仕方ないなっ。鈴木さん、林さん待っててね!」 そう叫ぶと、都合よく右手の近くにあったピンクのステッキを手に取り「プリンセス、スタートランスフォーム」と叫んだ。 すると、上空から虹色の光が私の元に集まり包み込んでいく、そして次の瞬間ピンク色のドレスを身に纏っていた。 敵に向かってステッキを振り翳した。 「プリンセスプリティレーザービーム」 ステッキの先からはピンクと黄色のレーザーが出てきてロボットの胸を突き抜けた。 ロボットは不気味な呻き声を上げると後ろにドスンと倒れ込み、辺り一面に砂埃が巻き上がった。 その瞬間、ロボットはおじいさん二人を空中に放り投げた。 私は軽く飛び上がると三メートルの高さにいる鈴木のおじいさんと林のじいさんの手を繋ぎ、ゆっくりと下降する。 地上からはいつも無表情な院長先生の「下原さん、ありがとう!」と感謝の声が聞こえてくる。 いつもは冷たい歯科衛生士さん達が呆気に取られただ私を見つめている。 そして憧れの医院長先生の息子である爽真先生(そうま先生)が、「下原さんがプリンセス戦士だったなんて知らなかったよ」と私を愛しい眼差しで見つめている。 鈴木のおじいさんは、いつも通り私に深々と頭を下げた。林のじいさんは号泣している。 「ワシが悪かった。受付さんが正義の味方だったなんて、今まで悪かった」 その場にいる全員が私を羨望の眼差しで見つめている。 「もう、バレたら仕方ないなっ。皆さん、隠しててごめんなさい。私がプリンセス戦士だったんです」 拍手が巻き起こる。みんなが私を羨望の眼差しでみている。 そう、私は正義のプリンセス戦士、百合香。弱きを助け、悪を倒す。 右手を上げ、空を見つめた。プリンセス戦士の決めポーズをとった。 「正義は勝つ!」 遠くで目覚まし時計の音が聞こえる。 いや、そんなはずはない。 私はプリンセス戦士百合香だ。 いや、何かが変だ。 私はプリンセス戦士ではない。 やっぱりこれは現実ではない、夢の世界だ。 慌てて布団から飛び起きた。  
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