1.プリンセス戦士百合香 爆誕!

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「これをどうしても百合香に飲んて欲しかったんだよ、父さんの会社で今度発売する女性向け酔い覚ましの特効薬」 話がチグハグ過ぎて理解ができない。私の頭が良くないからなのか、市太郎さんが話すことが滅茶苦茶だからなのか。 「……これを飲んで欲しいから私をホテルに誘った?」 「そうだよ、女ってセックスすると言うこと聞いてくれるだろ?」 ……市太郎さんクラスのイケメンになると、そうなのだろうか。女にとってご褒美なのか。それとも体の関係を持つと愛情が湧いてきて相手の全てが愛しくなるのか?やっぱりここで思いとどまって良かった。 市太郎さんはまたニッコリと笑った。 「とにかく、俺は百合香のその身長に惚れたんだ。高身長の女が絶対に似合うんだよ」 数々の不信感はこの一言でチャラになる、生まれて初めて異性から身長で褒められた。この事実がたまらなく嬉しい。 彼は私がこの一言を言われたら嬉しいとわかって言っているのだと思う。 けれど、イケメンにコンプレックスを褒められるのはどうしてこんなに嬉しいのだろう。 自分は絶対にホストクラブに足を踏み入れてはいけないタイプだ。 市太郎さんは全てを見透かしたようにまたニッコリと笑った。 「だからさ、まぁ難しいこと考えずに取り敢えずこれ、飲んでみてよ」 市太郎さんから手渡された瓶を暫く眺めていた。ふと市太郎さんを見ると、彼はニッコリと微笑んだ。 かっこいい、やっぱりイケメンは正義だった。 瓶の蓋を開けると一気に喉に流し込んだ。 美容ドリンクのような人工のピーチの味がする。 急に身体が熱を帯びる、その熱さが血流に乗って手足の先まで伝わる。鼓動がいつもよりも大分速く、そして最後に瞳孔が開いた。 本能が危機を感じた。 これは、普通の栄養ドリンクでも酔い覚ましでもない。 もしかして、この薬は犯罪に使われる危ないものではないのだろうか。 市太郎さんはそんな私を一瞥し、どこかの部屋から出てきて帰っていくカップルを眺めた。 「何で?身元のわからない男が勧める飲み物を簡単に飲むの?これドラックだったらどうするの?今日の飲み会でも思ったけれど、日本の女は相手を馬鹿みたいに信用して飲み食いして、みんな馬鹿なの?平和ボケにも程があるよ」 確かに市太郎さんが言う通り、まずいことをしてしまった。間違いなくそのうち意識が無くなり、犯罪に巻き込まれる。 彼は女には不自由していないし、性犯罪系ではない。背が高い=健康的=臓器を売られると回路が繋がった。 「……いやだ、まだ死にたくない」 彼は手を叩いて笑った。 「危ない薬じゃないよ。この薬はとある外国の秘密機関で作って貰った。これを飲むとプリンセス戦士に変身できる」 彼はこんな馬鹿みたいなことを言っているのに何故だか堂々として得意気だった。 「プリンセス戦士って、あのプリンセス戦士?」 「そう、十三年前、日本中の女児を熱狂させたあのプリンセス戦士だ」 「懐かしいな、私昔凄く好きだったんだよね」 「だろ?変身呪文も同じだし、ドレスもあの頃と同じディテールで再現したからさ、きっと百合香は似合うよ」 この人も大分酔っているのかもしれない。 そして市太郎さんは私の手を取った。 「本当だよ、百合香は今日からプリンセス戦士だ。弱きを助け、強い悪に立ち向かう、プリンセス戦士百合香の爆誕だ」
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