16人が本棚に入れています
本棚に追加
確かに小さな頃はいつか私もプリンセス戦士になれると信じていた。
けれども、もうそんな純真はない。
市太郎さんは真面目な顔を崩さないが、どこか興奮しているように声が少しだけうわずっている。
「俺はいつかプリンセス戦士が実際に誕生することを望んでいた」
私と同じ歳のこの男性もまたプリンセス戦士ファンだった。
その時、建物の外で女性の叫び声が聞こえた。市太郎さんと顔を見合わせて外へ出てみると、ヤクザみたいな二人組が若い男性を蹴る瞬間を目撃してしまった。
ここは大都会新宿の繁華街の外れだった。よくよく見ると周囲は如何わしい店に囲まれていて、通りすがる人たちも皆派手な外見だ。
男性は一メートル位宙を舞い道路に体を叩きつけられた。
ところがヤクザ二人組は容赦しようとしない。さらに若い男性に攻撃を加えようとしている。
怖くて足がすくんだ。
「誰が助けてくれないかな」
そう期待するが、道歩く人は私と同じ気持ちだ。心配そうに見つめるだけで、誰も助けようとはしない。
市太郎さんもまた首を横に振った。
「俺は助けに行かないよ、俺には力がない。自分に力がないと他人なんて助けられない。百合香、今こそ変身しろ」
「変身できるわけないよ、警察……呼ぼう」
市太郎さんはスマホを取り出した私の手を握った。
「警察は到着まで十分はかかる。あの人殺されるかもよ」
まさかの展開が容易く想像つく。ここ歌舞伎町ではそんな事件が頻繁に起こってそうだからだ。
「よしっ、物は試しだ。あの人助けたいだろ?プリンセス戦士への変身の言葉覚えてる?」
市太郎さんが余りに真剣な眼差しで言うので思わず口が動いた、
「プリンセス スター トランスフォーム」
すると歌舞伎町のネオンを通り越した上の方から虹色の光が降り注ぎ私を包みこんだ。次に気がついた時にはピンクのドレスを見に纏い、ピンクのステッキを手に持っている。
昔、誕生日プレゼントとして両親に買って貰ったドレスとステッキ。
同じ格好で同じステッキを持っていた過去が鮮明に蘇る。
市太郎さんは私を見て満足そうに「いい出来だな」と頷いた。
最初のコメントを投稿しよう!