16人が本棚に入れています
本棚に追加
まだ今の状況が飲み込めていない。けれど、数秒後、魔法の言葉が頭に思い浮かんだ。
「これは夢なのだ」
普段満たされていない自分は、この類の夢をたまに見る。夢の中で自尊心を取り戻そうとしているのだ。
夢だとしたら、私は世界中の誰よりも強い最強の戦士だ。困っている人を助けなければならない。
ジャンプすると案の定、三メートルは余裕で飛び上がれる。
隣のビルの2階のファミレスでパスタを食べているおじさんと目があった。おじさんは私を見て口をあんぐりと大きく開け、時間停止した。
また若い男性を蹴ろうとしているヤクザ二人組の直ぐ背後に着地すると、プリンセス戦士がそうしているように叫んだ。
「悪は絶対に許さない!正義の味方プリンセス戦士、参上!」
ヤクザ二人組は振り返ると私を嘲笑した。
よくよくみると一人は背がかなり高く筋肉質だ。もう一人のヤクザは体重100キロは越しているようなヘビー級だ。二人ともかなり強そう。
「姉ちゃん助けに来たんか、勇気あるな。ああ?」
ヤクザが顔を近づけて凄んでくる。けれど不思議と怖くない。
だって私はプリンセス戦士だから。
右手に持ったステッキを空高く掲げた。
「プリンセスレーザー」
そう叫ぶとステッキの先から水色の光線が出てきた。背の高い方のヤクザは電流を食らったように体が小刻みに揺れ、後ろに倒れ込んだ。
もう一人の太ったヤクザが仇を取ろうと私にどんどん近づいてくる。
「プリンセスキック」
軽くジャンプすると、1メートル飛び上がれた。ヤクザは鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしている。隙だらけのヤクザの下腹部めがけて蹴り上げると、ヤクザは綺麗に放物線を描き道路に倒れ込んだ。
そして、いつもの決め台詞を叫んだ。
「正義は勝つ!」
ギャラリーから拍手が巻き起こる。他人から拍手されるなんて高校の卒業式以来かもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!