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遠くからパトカーのサイレンが聞こえ、我に返った。
勝利に浸るよりもまず心配しなければいけない人がいる、本当に私って奴は。
ヤクザに暴行を受けていた男性を探すと荒い息を吐きながら道路に倒れ込んでいた。
傍には友人らしき若い男性が「ごめんな」と泣きながら背広を脱がせようとしていた。おそらく一緒にいたけれど、怖くて助けられなかったのだろう。
私だって変身しなければ助けに行けなかった。この人を誰も責められない。
「大丈夫ですか?」
友人男性の隣に座り声をかけると、微かな声で「はい、ありがとうございます」と返答があった。
意識はしっかりしている。けれど頬に紫のあざがついているし、ところどころ服が擦り切れている。体も見えないだけで、紫のあざがや出血している場所が沢山あるのだろう。
救急隊員が慣れた手つきで担架に男性を乗せ、救急車へと運ばれていく。
友人男性に命の恩人の如くお礼を言われ、「困ってる人はほっとけません」と謙遜しながらも自分の鼻は富士山よりも高くなっていた。
友人男性が鞄からケースを取り出し、名刺をくれた。
「後でお礼がしたいので必ず連絡下さい。ツレの命の恩人ですから」
「命の恩人」
この言葉の持つ力に震えていた。私が世の中に確かに存在している、生まれて初めてそんな気分になれた。
救急車は再びサイレンを鳴らして走り去っていくと今度はベテランと若い新人さんの二人のお巡りさんが私に話しかけてきた。
「またあの組の奴らか、あいつらは見掛け倒しだけど、本当に強いやつっているから、お姉さんこういうことしちゃいけないよ。お姉さんはどこの店?」
「店?」
ギャラリーの酔っ払いが叫んだ。
「一丁目のプリンセスの姉ちゃんだろ?今度指名するな」
いつの間にか隣に来ていた市太郎は腹を抱えてゲラゲラ笑っている。
私は正義のヒーローではなく、どうやらここ歌舞伎町にある怪しげな店の従業員と間違われているようだ。
恥ずかしい、ギャラリーをかき分け路地に走って逃げると市太郎が後をついてきた。
「百合香、そろそろ変身といたら?」
「どうやって解くの?」
「百合香が一番知ってるでしょ?」
昔何度となく唱えたこの言葉がスラスラ出てきた。
「トランスフォームプリンセスオフ」
すると一瞬のうちに元のロングスカートとロンTという格好に戻ってしまった。
いったい何なんだろう、これは現実なのか,
頬をつねるとやっぱり痛い。
「百合香、じゃあ次はホテル行こうか」
やっぱり夢なのだろう。
謎のイケメンと合コンで出会い、ホテルに誘われたかと思うと変な薬を飲まされ、プリンセス戦士に変身して、そしでたプリンセス戦士オタクイケメンがホテルに行こうと誘ってくる。
こんなクレイジーな状況はまさしく夢だ、
とにかく帰ろう、プリンセス戦士オタクイケメンが何か言っているのを遠くに聞きながら帰路についた。
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