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2.悪をやっつけろ!
「今わたしは夢を見ている」と夢の中の自分は勘づいていた。さっきから同じ場面が繰り返されているからだ。
案の定、もう一度最初から繰り返されることたなる。
プリンセス戦士に変身した私はビルぐらいの大きさの巨大なタコの怪物を倒した。
「正義は勝つ」
タコが破壊したビルを背景に腕を掲げ決めポーズを取るとオーディエンスから拍手喝采を受けた。そして5歳くらいの小さな女の子が私の元に駆け寄って来る。
「あのっ、大好きです。大きくなったらプリンセス戦士になりたいです」
「嬉しい!」
可愛い告白に、天にも舞い上がる思いで小さな女の子を抱きしめた。女の子は「プリンセス戦士大好き」と涙を流して喜んでいる。
私たちの様子を眺めていたギャラリーから再び拍手が巻き起こる。
「プリンセス戦士さすが!」
「世界の救世主だよ!」
「かっこいい!」
ギャラリーの賞賛に心が弾んでいた。
翌朝、とてもいい気持ちで目が覚めた。
やっぱり夢だった、いやあれは夢ではない。プリンセス戦士になったのは現実に起こったことだ。
昨日は確か……市太郎がこのマンション買ったとかなんとかで、隣に引っ越してきたとかなんとか……
私のことをプリンセス戦士になることだけしか利用価値がないとかなんとかかんとか……
昨日の市太郎を思い出し、再び怒りが湧いてくる。
私は誰よりも自己肯定感が低くくないし、おまけに誰よりも承認欲求が強くない。
自分はどうしようもない奴だってわかっているし、誰からも褒めてもらえなくても生きていける。
二度と私はプリンセス戦士に変身なんかしない、面倒なことには巻き込まれたくないし、危ないことはしたくない。
プリンセス戦士の人形を手に取ると大きなため息をついた。
それでも心に引っ掛かりがある。市太郎の帰り際のあの悲しそうな顔が気になって仕方がない。
ああいう天真爛漫なタイプは一番苦手だ。3日後に小学校の入学式を控えている弟の高志と同じだ。
高志は歳が離れた唯一の兄弟で、歳が離れた末っ子らしく無茶苦茶な要求をしてきて、怒ると不貞腐れるか泣く。
「お姉さんなんだから」「歳が14も違うのだから」と周りからの圧力に負け、また私自身も仕方がないと諦める。
高志は血の繋がりがあるし、家族だしまだ我慢ができるが、赤の他人の要求はのめない。
せっかくの日曜日なのに、気分がどんよりして気のせいか視界が暗い。窓を少し開けて朝の空気を取り入れると、隣の公園の桜の匂いが入ってきた。
後で家族でお花見に行こう。このマンションに越してきてからの家族行事だ。
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