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もう市太郎のことを考えるのは止めよう。
ため息をつきながらリビングに行くと、お父さんはソファに座りスマホをいじっていて、弟の高志は大好きな戦隊モノのテレビを齧り付いて叫び声をあげていた。
「いけ!そこだ!レインボー3号!」
もし私がプリンセス戦士に変身できると知ったら高志は喜び狂うだろう。そう考えると小さな笑いが出る。
お母さんの姿が見当たらないので、今日はクリーニング屋のパートに出ているようだ。いつもは平日に働いているが、月一回ぐらいは土日も出勤している。
そう、うちはどこにでもある平凡な家族そのものだ、
お母さんが用意してくれていま朝ごはんを食べる。今日は私が夕飯を作る当番だから、何にしよう。
ハンバーグもいいし、オムライスでもいいし、唐揚げだっていい。
ソファに座っていたお父さんが立ち上がり、食卓までやってきた。
「急に会社に呼び出されたから、今日一日高志と遊んでやってよ」
正直面倒だったけれど、私もこの家の一員だ。困った時には助け合わなければならない。
お父さんが家を出て、朝の戦隊ヒーロー番組が終わると、高志はしきりに「外に行こうよ」と私を誘い出す。
高志は人見知りも激しく、あんまり友達もいないようだ。友達との付き合い方がわかっていない。なので彼は大人と行動することを好む
高志を連れて公園に寄って、スーパーに連れて行こう。そうすれば半日ぐらいは潰れそうだ。
ふと市太郎の事がまた思い出され、心がモヤッとする。
昨日気まずい別れ方をした、少なからず市太郎も反省しているだろう。というか、もう引っ越ししてたりとかして、二度と会わないのかもしれない。
もっと優しくしとけばよかったかな。
急に玄関のチャイムが鳴り、インターホンを覗くと、満面の笑みの市太郎がドアップで映っていた。
「百合香!今日休みだろ?どっか連れていって」
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