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市太郎はよくわからないことに感動している。
「日本は電線がいっぱいだな」「本当だ」
「カラスが沢山いる」「すごい」
「子供が一人で歩いているぞ」「へえ」
高志もよくわからずに市太郎と一緒になって感動している。市太郎はその辺の道端にあるもの全てが珍しいのだ。
一体どういう人生を送ってきたのだろう。
「うわっ、狭ー!俺がいた所のスーパーはもっとデカい」
「一体どこの国にいたの?」
市太郎はニッコリと笑った。
「それは教えられない」
市太郎は何かを誤魔化すように声高らかに叫んだ。
「高志!俺の奢りだ!ここのお菓子売り場のお菓子全部買ってやる!」
怒りに震える私とは正反対に高志は雄叫びをあげた。今まで買って貰ったお菓子の最高個数は誕生日の五個だったからだろう。
「高志の教育に悪いでしょ?」
今まで高志の教育がとか考えたこともなかったけれど、ほんの数パーセントそんなような気もした。
あとの95%は嫉妬だ。
手取り18万円でボーナスは春と冬に一ヶ月分出る。お菓子は一回につき一個買うのだって贅沢だと思っていたからだ。
世の中には苦労せずともお金を持っている人間がいる。
悔しい、「ずるい」という言葉が口から出かかって止まった。ずるいを真剣に使うのはみっともない。
「そんなに買っていくらすると思ってんの?本当にそんなにお金持ってんの?」
「俺、幸いなことに金に苦労したことないんだ」
市太郎はニッコリと笑った。そしてカップラーメンを品出ししていたうちの母親と同じ世代の店員さんに話しかけた。
「すいません、お菓子売り場のお菓子、全部欲しいんだけど」
けれど、私は止めなかった。ここにあるお菓子が本当に自分のものになったらいいなぁと期待していたからだ。
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