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店員さんは五秒時が止まり、すぐにバックヤードに消えていった。
普通に考えると、こんな若そうな男にそんな資金あるわけない。
悪質な悪戯だとは思うが、今動画で「スーパーのお菓子全部買っちゃった」みたいなユーチューバーがいるから、念のため上の立場の人に確認しに行ったのだろう。
数分後、バックヤードから店長の名札をつけた男性が出てきた。最初は懐疑的だったけれど、市太郎が財布からカードを取り出すと店長の顔色が変わった。
黒いクレジットカードでいかにも金持ちが持ってそうなやつだ。
「ちょっと、佐藤さん!工藤さんも谷さんも呼んできて。レジは一個開けとけばいいから」
今現在、レジには沢山のお客さんが並んでいる。そんな中レジは一台を残して閉鎖された。
勿論お客さん達は次々に不平不満を口にしていたけれど、店長はパートのおばちゃんを集めて、袋詰めし始めた。
資本主義とはこういうことなのだ。
居た堪れない気持ちと共にほんの少しだけ優越感を感じた。
周りからの羨望の眼差しに急に自分のカーストが上がった気がしたのだ。
他人のふんどしで相撲をとる典型だろう。
結局、量が多すぎて持ち帰りは無理だということで後で自宅に送ってくれる手筈を店長が整えてくれた。
私と高志は手を取り合って喜んでいた。私達一般庶民にとってこんな幸運は滅多にない。
ウキウキで店を出ると、駐車場に来ていたキッチンカーを見て市太郎は笑顔になった。
「アイス買おうよ!ソフトクリーム、食べてみたかったんだよな」
三つソフトクリームを買うと、高志はニコニコとショッピングセンター内の小さな公園へと駆け出した。
その無邪気な背中を追いかけていると、さらに市太郎は無邪気な笑顔を私に向けた。
「これからもプリンセス戦士になってくれるよね?」
小さく首を振る。
「……それは無理、もう二度とあんな危ないことしたくない」
「何でだよ?」
「怪我したくない、こわい」
市太郎は流石に黙った。ケガをする可能性があることは、よくわかっているのだろう。今の市太郎の態度を見て余計に心が固まった。
「誰か違う子探してよ、私より運動神経が良くて、もっと見栄えする子」
「俺は百合香がいいと思ったんだよ。世界中のどの女よりもプリンセス戦士が似合うよ」
市太郎は女が喜ぶ言葉をよく知っている。そういう教育もされているのかもしれない。
「無理だよ、わたしにはもうできない」
「できるよ、俺は知ってる。百合香が困っている人ほっとけないこと」
子供達が遊ぶ喧騒の真っ只中で市太郎とみつめ合った。
人の心の奥を見透かしたようなこの言い方、一体何なのだろう。
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