2.悪をやっつけろ!

9/11
前へ
/69ページ
次へ
高志は市太郎の後ろに隠れ、市太郎のロンTの裾を強く握りしめている。私もそうだけれど、初めて見る犯罪場面が怖くて仕方がないのだろう。 市太郎は高志を優しく抱きしめた。彼は「小さい子には優しくする」というような道徳の教科書通りのことはよくできる。 市太郎はまたニッコリと笑った。 「今日は二ヶ月に一回の年金の支給日か。年金盗まれたら、あのばあちゃん生活に困るだろうな」 近所に住んでいる父方のおばあちゃんを思い出す。つい最近まで、年金の支給日にいつもお菓子を買ってくれていた。 市太郎は私が動揺しているのを見透かしているのだろう、更に私の懐柔を試みる。 「犯人が後日捕まっても、盗まれた金って返ってこないんだぜ。年金なしにどうやって二ヶ月過ごすんだよ。代々受け継いだ大切な着物とか売っちゃうんだろうな、じいさんの形見の骨董品とかかもしれない。風邪引いても病院行くの我慢してさ」 その瞬間だった、小さな人影が逃走してくる原チャの前に立ち塞がった。 さっきまで市太郎に抱きしめられていた高志だ。 高志は泣きながら両手と両足を広げ原チャを止めようとしている 原チャと高志の距離は5メートル程しかない。間違いなくあと数秒したら、高志は二人乗りのかっ飛ばした原チャとぶつかってしまう。 原チャの男達は突然の妨害者に「どけ!」と叫んだが、もう彼らも避けようと思っても止められないのだろう。
/69ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加