3.人助けは誰のため

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3.人助けは誰のため

今日は色々クレームを言う患者さんが三人いて、とても疲れた。治療に関するクレームを言われているのに院長先生は出てこないし、運の悪いことに助けてくれる爽真先生は今日お休みだった。 帰り際、いつものように歯科衛生士さん達に「でかいから邪魔、場所取るんだから、さっさと着替えて」と邪険に扱われ、とんでもなく疲れていた。 地下鉄の最寄駅から自宅を目指す。近頃は大分暖かくなった。日が沈んでも羽織ものはいらない。 三日月に照らされながら、ふと思い出す。 もうすぐゴールデンウィークだ。 まぁ、勿論何の予定もないけれど。 出不精の両親は家に居させて、市太郎と高志でどこかに出かけようかな。 遊園地に連れて行くと彼らは喜んでくれそうだ。 そう思うと少しだけ気分が上がる。 市太郎と出会ってから一ヶ月弱が過ぎた。彼は相変わらず謎のままだけれど、心に入ってくるのがうまい。 今ではすっかり、家族の一員のようになっているのだ。 そして最初はあんなに嫌がっていたプリンセス戦士も今では普通に受け入れてしまっている。いいことなのか、悪いことなのか判断がつかない。 小さく息を吐いた瞬間、女性の悲鳴がどこからか聞こえた。 迷うことなく「プリンセススタートランスフォーム」と唱えた。 というか、変身しないと怖くて人助けなんてする気になれない。 全速力で現場へと走る。勿論、今だけは空を飛ぶように走ることができる。 大通りから逸れた脇道で制服姿の女の子に抱きつく不審者を見つけた。勿論飛び蹴りした。五十代ぐらいの不審者は道路に叩きつけられ、右腕を押さえながら呻いている。 女の子に駆け寄ると、余程怖かったようで手足がガクガクと震えている。 「もう大丈夫だから、怪我はない?」 優しく声をかけたが、女の子は涙を流して呆然としている。 昔から痴漢や性犯罪は絶対に許せなかった。けれど心とは裏腹に怖くて何にもできなかった。でも今は違う。 遠くからサイレンが聞こえる。ようやく警察が到着したのだ。 若い婦警さんといつもよく会う酔っ払いのように顔が赤い中年のお巡りさんがパトカーから出てきた。 「またプリンセスのお姉さんか、だから無理しちゃいかんって言ってるでしょ?怪我したらどうするの?」 市太郎のようにニッコリと笑い色々なことを誤魔化すと、女の子を婦警さんに任せ、その場を走り去った。 後ろで「ちょっとプリンセスのお姉さん!今日こそ調書取りたいんだけど」といういつものセリフを聞かなかったことにした。 プリンセス戦士になる前は確かに平和だった、けれど今の方が生きてるって感じ。 そういう意味では市太郎に感謝している。
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