3.人助けは誰のため

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週に一度ぐらい、プリンセス戦士に変身して悪を退治する。 もちろん、本物のプリンセス戦士のように大怪獣や世界を制圧しようとする悪の組織は出てこない。 さっきのようにひったくりや、スリ、喧嘩、痴漢といった身近な悪を退治している。 それでも悪を対峙するのは気持ちがいい。快感だ。 自宅マンションに辿り着くと、お母さんの用意してくれたご飯を食べ、私の仕事分担である茶碗洗いをした。 自室に篭ってスマホを触っていると、急に誰かが部屋のドアを開けた。 高志かと思いきや、市太郎だった。 人懐っこい笑顔とお金の力でお母さんとお父さんと高志を懐柔したこの男は家族同然にこの部屋に出入りしている。 私もあきらめ半分、無邪気な可愛さ半分で許している、奴はいわば高志と同じポジションに収まっているのだ。 けれど、どうしても突然部屋を開けられることは慣れない。 「ノックもなしに人の部屋入ってこないでよ!」 「いいでしょ?別に百合香が裸だったとしても何の興味もないよ」 自分に性的な魅力がないことは良くわかっている、悔しい。 「そうじゃなくて、プライバシーってあるでしょ?」 市太郎はまたニッコリと笑った。 「誰も百合香のプライバシーに興味ないよ。プライバシーなんて今の時代ないから」 「プライバシーなんてないなら、今から市太郎の部屋入れてよ!」 「それは無理、俺の部屋は機密を保持しなきゃならん仕事で溢れているから」 出会ってから一ヶ月が経ったが、この秘密主義の市太郎のことは全然わからないことだらけだ。 小さい頃は日本に住んでいた。私と同じ二十歳で、どこかの国の何らかの研究所に一ヶ月前までいた。日中は隣の部屋でテレワークで仕事をしているらしい。 こんなことしかわかっていない。市太郎の苗字さえも知らない。 そして彼は話題を変えるのが上手い。 「そんなことより、百合香。これ見てよ」 市太郎が今まで一度も見たことないマークがついているタブレットを差し出した。やけに高機能そうだけれど、この鳥のマークはどこのメーカーなんだ? 画面を見ると、動画サイトが表示されていた。そして動画のタイトルを思わず大声で読んでしまった。 「東京都武蔵小金井市でプリンセス戦士現る?!」 「今人気の東京女子チューバーという集団が作っているんだってさ」 市太郎はニコニコと教えてくれた。 自分が動画サイトのネタにされる日がくるなんて……一体何を言われているのだろう。 おそるおそる三角の再生ボタンを押した。
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