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市太郎は私の存在を無視することにしたようだ。
「ピエール、俺を見つけるのは三ヶ月ぐらい後かと思ってたよ。色々細工したし」
「市太郎さんが休みを取られた一ヶ月前にはもう全てわかってましたよ。私の仕事が片付かなくてここまでかかってしまいました」
「やっぱりお見通しか」
どこが面白いがわからないけれど、彼らは二人で目を合わせ、笑った。
「じゃあ、ピエールもここに住むか?」
「そうさせて下さい、プリンセス百合香のデーターもとりたいですからね」
ピエールもこの薬に何か関係している、いや、この薬を作った張本人ではないのか。
疑惑の眼差しを向けたが、二人は私を一切気にしていない。
彼らは普通の人と何かが違う。着ている服は何だか高級そうだけれど、そういう見た目に関する違いではない。
何か内面から醸し出す何かが違うのだ。その底知れぬ違和感が何かわからず怖い。
市太郎はいつものニコニコ顔で、ピエールは片言の日本語で「お母さん、食事とてもおいしいね。レストランよりおいしい」とお母さんの手料理を褒めていた。
単純なお母さんは案の定、天井にぶつかりそうなぐらい舞い上がっている。
二人とも人の付き合い方が抜群にうまい。
ご飯が終わってからも、お父さんと楽しくメジャーリーグの話をしているピエールと市太郎を眺めていた。
やけに二人の呼吸が合っていて仲が良さそうだ。
けれど一方でピエールは市太郎を監視している、市太郎はそれを当然のことと考えている。
この二人はどういう関係なのか。
三日後の朝、仕事に行こうと部屋から出ると右隣の部屋の玄関も開いた。
隣のご夫婦も出かけるのだろう、そう思ったけれとなぜかピエールが出てきたのだ。
「何でピエール?市太郎の部屋に住んでるんじゃ?」
「一緒に住むわけないよ、プライバシーはどんな場合でも保たれるべきだ」
ピエールは日本人が想定する外国人らしい回答をした。
かなり嫌な予感がしているが、念のため聞いておかなければならない。
「……佐藤さんご夫婦はどこに?」
「ハワイに移住して頂きました」
顔が引き攣ってうまく返事ができない。
ハワイに移住っていくら渡して、どんなコネクションを使ったのだろうか。
ピエールははさも当然のように耳をつんざくような大声でこう言った。
「ところで、百合香の勤務先や勤務先の人間を知っておきたいので連れてって下さい。今すぐに」
私はありったけの大声で叫んだ。
「連れてく訳ねぇだろ!」
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