1.プリンセス戦士百合香 爆誕!

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待合室にある派手なカラクリ時計は午後七時を指し、異国風状漂う木製の人形が出たり入ったりを繰り返した。 院長先生や歯科衛生士さん達はいつもの時間に帰っている。けれど私は会計をしなければならない。 受付で例のヤクザまがいのおじさんが診療を終えるのを待っていた。 今日は七時から楽しみにしていた飲み会だったんだけど、仕方ない。どうせ男の人には「デカっ」と驚かれるのがオチだ。 そんなことより爽真先生のかっこいい姿を見られたし。 また胸が高鳴った。 もちろん、爽真先生は私には手出しできるレベルの男ではないことをよく理解している。けれど、頭の中で思う分には自由だ。 すると七時十分頃、ヤクザまがいのおじさんは診察室から出てきた。 おじさんが出した保険証はバックに怖い人がいると噂の建設協会のものだったから、本物のヤクザさんかもしれない。 おじさんはさっきと違いニコニコとしていた。 「姉ちゃん、さっきは怒鳴って悪かったよ」 きっとさっきは物凄く歯が痛かったのだろう。外見は怖いけれど、意外といい人なのかもしれない。笑顔で会釈をした。 「それでは、次のご予約は二週間後の19日の水曜日になりますので」 診察券を渡すと、奥から爽真先生が出てきた。 「虹川さん、次の診療もちゃんと来てくださいよ」 「当たり前よ、もうこんな痛い思いしたくねぇからな、先生、本当にありがとよ」 おじさんは恥ずかしそうにお礼を言い、自動ドアを手動で開けてやけに高そうな革靴を吐くとそそくさと出て行った。 「爽真先生、時間外の患者さんに対応していただいて本当にありがとうございます」 頭を下げると爽真先生は爽やかに笑った。 「お礼を言うのはこっちだよ、本当はああいう患者の相手は親父がしないといけないだよ。今まで苦労させたね。今度から厄介そうな人が来たらすぐ俺呼んで」 私よりも10センチ背が高い爽真先生を見上げながら、ぽーっと浮かれていた。 かっこいい 「それに残業してくれて、ありがとう。お腹すいたでしょ?チョコでも食べる?」 私の返事も聞かず爽真先生は奥のロッカーから外国製の小さなチョコレートの箱を出してきた。 「美味しそう!」 歓声を上げると爽真先生は恥ずかしそうにこのチョコについて教えてくれた。 「母がこの間フランスに行ってきたんだ、その土産」 院長の奥さんはたまに歯科医院に現れ、よくわからないマナーを指導してくる。 「誰か女の子にあげなさいって言われたんだけど、上げる人いないんだよ」  爽真先生は彼女がいないらしい。数億分の一でもいいから期待してもいいのだろうか。 次の瞬間、外から歯科衛生士三人組が自動ドアをこじ開けて入ってきた。おそらく外の植え込みでタイミングを見計らっていたのだろう。 「爽真先生、残業お疲れ様でした!みんなでお弁当作ってきたから、一緒に食べましょう!」 千秋さんは私の手から強引にチョコを奪い取り薫さんに渡す。そして美和さんが猫撫で声で上目遣いに爽真先生を見つめた。 「うわっ、美味しそうなチョコ。ありがとうございますぅ」 戸惑っている爽真先生の意思なんか無視して、三人組は待合室に弁当を広げ出した。 そして「下原さんは、早く帰って下さいね。無駄な残業代ついちゃうから」と一瞥され、カースト最下位の私はその命令に従うしかなかった。
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