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謎のイケメンのフレンドリーな態度に戸惑いを隠せない。
道端に百万円が落ちていたら、普通の人間は訝しがる。
しかしながら、市太郎さんの綺麗な顔を見つめていると彼も私の視線に気づき微笑んだ。
そして煩悩にまみれる私の杞憂は一瞬で吹き飛んだ。
「カッコいい〜!」
勿論二十歳の大人として声に出したりはしない、心の中で叫んだ。
私は女性を顔でしか選ばない男の人が大嫌いだったし、男の人は顔より心だと思っていた。
けれど、今私はその男の人たちの気持ちが初めてわかる。
綺麗なものは正義だ。
イケメンは正義だ。
すると、私のスマホにメッセージが来た。隣の隣に座っている美華子からだ。
「市太郎さん誰が持ち帰っても恨みっこなしね」
美香子にアイコンタクトを取り了承した。
店員さんが持ってきてくれたカシスオレンジを一口飲んだ。
恨みっこなしなのは当然だ、それが世の中の条理だ。
いや、ちょっと待て。
私達みたいな普通の女が市太郎さんを持ち帰れる訳がない。
けれども隣を見ると女子はみんな市太郎さんに釘付けになっている。
みんなが考えてることが手に取るようにわかった。
まともに付き合って貰えなくてもいい、一晩だけでもいい。とにかく市太郎さんと関わりを持ちたいんだ。
男と女の欲望なんてそんなもんだ。
市太郎さんの連れの男の人が得意気に言う。
「俺のバイト先に入ってきたんだよ。合コンに行ったことがないから今日連れてきた」
穂花がその情報に食いつく。
「市太郎さんは今はフリーターされてるんですか?」
市太郎さんは爽やかに微笑むと、また女子が釘付けになる。皆、普段は気にするはずの男性の職業なんか気にしていない。
イケメンは正義なのだ。
「そう、最近海外から帰ってきて、親の会社継ぐ前に社会経験をと思って。沢山の人と関わらなくちゃいけないし」
市太郎さんはまさかの社長令息だった。しかもかなり大きな会社だろう。何故わかるかと言うと雰囲気だ。
そんな気がする。
夢中になっているほろ酔い気分の友人三人の隣で妙に冷静な自分がいる。
あの市太郎さんは無理。
うちらみたいな普通の女が夢見ていいレベルではない。
「それじゃあ、メンバーも揃ったことだし、もう一度カンパーイ」
幹事らしきや優しそうな男性の明るい声で私も慌ててグラスを上に上げた。
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