1.プリンセス戦士百合香 爆誕!

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飲み放題終了間際、三杯目のライムサワーを頼んだ頃だった。 みんなアルコールが体の隅々まで周り妙にハイテンションで明るい。 ここまででわかったことは、市太郎さんは私達と同じ二十歳でお父さんのやっている会社を継ぐ為に長年住んだアメリカから帰ってきたことしかない。 その他は突っ込んでもさり気なく交わされる。自分の個人情報を言いたくないのだろう。 市太郎さんは着ている服や身につけている時計が明らかに高級品だ。 私を始めとした他の七人とは生活レベルが違うことが示されている。 有名人の生い立ちを本で読んだような薄い情報しか知らない。 けれど私達、飯田橋専門学校の同級生グループは市太郎さんに夢中になった。勿論私も含めて。 アルコールが体に周り「身の程を弁える」ことが頭から抜けた。 幹事さんの「じゃあそろそろここら辺でお開きに」という一声が悲しく聞こえた。 飲んでいる量がみんなの半量以下の私は「これでもう市太郎さんと会えなくなる」ことを本能で感じ取っていた。 果敢にも穂花の「連絡先交換しましょう」の声に他の男性陣は応じてくれたけれど、市太郎さんは笑顔で「ごめん、携帯まだ持ってないんだ。それにもう時間だから帰らないと」とわかりやすい嘘をついた。 そこで他の三人も酔いが覚めたようだ。 市太郎さんとの別れを悟ったように大きなため息をついた。やっぱり無理だったと。 みんなで店の外に出ると、男性陣が「この後カラオケ行こうよ」と誘い、女性陣もヤケクソ気味に「いいよ」と叫んでいた。 「百合香は?」 首を横に振った。事務が一人しかいない小さな我がハッピー歯科医院では、明日土曜日は朝から仕事だ、それを穂花達もよくわかっているので、彼女達もあっさりと引き下がる。 「じゃあ、これで失礼します」 みんなに頭を下げ、市太郎さんの綺麗な顔を記念にもう一度見ておこうと顔を上げた。 市太郎さんは私と目が合うと、またにっこりと笑った。 「百合香、じゃあ一緒に帰ろう」 穂花達の唖然とした表情を見て申し訳なくなった。時に自分がした何気ない選択が最良の選択になる。 危うく「ヒャッホーイ」と叫んでしまうところだった。
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