1.プリンセス戦士百合香 爆誕!

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二人で地下鉄の駅を目指して歩いている。今まで生きてきて、こんなスーパーイケメンと会話したことなんてないから、何を話せばいいのかわからない。 金曜日の午後九時過ぎということもあり、通り過ぎる人達は皆、陽気に大声で話している。通り沿いの桜が散り始めたようで、市太郎さんの頭の上にひらひらと落ちた。 けれど私達は何にも喋らない。この無言の空間がかなり気まずい。 繁華街の終わりに差しかかった頃、最初に口を開いたのは市太郎さんだった。 「百合香、今から休憩しようか?どこがいい?」 アメリカから帰って来たばっかりで、疲れたのだろう。酔いが回って歩くのかつらいのかもしれない。 「あそこにカフェありますよ」 親切心から十メートル先にあるコーヒーチェーン店を指差すと、市太郎さんは吹き出した。 「違うよ、この状況での休憩はラブホテルだろ?どこにする?」 何を言ってるのか理解ができない。夢でも見ているのだろうか。 けれど、私たちが歩いている先にはお城みたいなホテルが乱立しているのが見える。 これは……本当にそういうことなのだろうか? 「さぁ、どこがいい?日本のホテルは回るベッドとかカラオケとか温泉もあるんだろ?行ってみたいな、どの部屋でもいいよ」 市太郎さんと出会って2時間弱。交わした言葉は最初の挨拶とこの「ホテル行こう」のくだりのみ。 普通は「馬鹿にするな」と怒らなくてはならない場面だと思う。けれど、私は違う。 自慢じゃないけれど、私の頭の中は煩悩で溢れている。お金が沢山ほしいし、綺麗な服が欲しいし、イケメンと付き合いたいし、美味しいものが沢山食べたいし、みんなに凄いって言われたい。 「女には性欲がない」 そんなの嘘だ。 正確には性欲が湧く対象が狭いのだ。若くて、そこそこかっこよくて、清潔感のある人、人に不快感を与えない人、これが私の性欲の対象になる人だ。 この全てに当てはまり過ぎるイケメンとそういうことができるなんて、こんなチャンスない。 これを逃したら私は一生異性とそういう関係になれないかもしれない。 けれど、ヘタレの自分が尻込みしている。一回でも経験があれば、すんなりと行けただろう。 けれど患者さん以外の男性と殆ど話したことのない自分は恐怖を抱いていた。 そうこうしているうちに、ホテル街に差しかかり、市太郎さんは一軒のホテルの前で足を止めた。 そこはいかにもラブホテルという真っ白なお城風の建物だ。どういうコンセプトなのかわからないが、自由の女神も入り口に建っている。 「ここでいい?」 笑顔の市太郎さんを見て、「かっこいい」と思わず頷いてしまった。 きっと、さっき飲んだ三杯のアルコールが判断を誤らせたのだ。
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