1 プロローグ

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1 プロローグ

「あっちいけっ!あっちいけって!!」 「やだっ!こっち来ないでっ!!」 ワンワンッ ワンワンッ ヴーッワンワンッ 「ふっ、ふえぇ・・・やぁだぁ。こっち来ないでって言ったぁ。」 「しっ、しっ。びえぇんっ・・・あっ、あっちっ・・・いけっ。いけってばぁ。」 ワンワンッ ワンッ ブルルッウーワンッ 剥き出しの犬歯からダラダラと涎が垂れていて、2人の目の前でポトリ、ポトリ、と落ちていく。 狂ったような犬の目はぎょろりと大きく、お互いに隙間もないほど抱き合っている2人がその瞳に写っている。 目の前には、ベージュのトレーナ―を着た小さな幼児と、同じぐらいの大きさのグリーンのチェックシャツを着た子がブルブル震えて抱き合い蹲っていた。 お互いギュっと目を瞑っているので今にも飛び掛かってきそうな犬の様子を見れない。 いや、余りの恐怖に目を開けるなんて出来ない。 とにかく命綱は傍らにある温かく柔らかい身体で、これを離したらきっと一気にガブッとやられる。 子ども達は小さいながらもそのことを良く分かっていた。 だからブルブルと震えながらもお互いに掴んだ場所を決して放そうとはしなかった。 すると、フンフンと犬は子どもの足の匂いを嗅ぎだした。 短い濃紺色の靴下と半ズボンを履いていたベージュのトレーナーの子どもは「ひゃっ」っと身体をブルリと震わせたがそれでも命綱である向かいの子の身体を離す事はしなかった。 「ふっううっ・・・うっ、あっちに行ってよぉ・・・こわっ、こわいよぉ・・・」 涙は途切れることがなくダラダラと流れ、くっつき合っている2人の頬をピタリとくっつけた。 パツパツな弾力のある頬の肉が、お互いの頬で反発しあう。 生温かい涙が2人の間で更に温い感触を残した。 「こら!おまえっ。ダメだろっ!」 騒いでいる犬の鳴き声に慌てて飼い主らしき人がこちらにやってくる。 リードが外れてしまったのだろうか。手には長い長い綱を持っていて、今にも飛び掛かりそうな犬を抑えこんでくれた。
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