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「受賞をしたのは…」 アカデミー賞の授賞式会場のステージ上で司会の男性が、封筒から一枚の紙を取り出し確認している。 それを緊張で硬直した面持ちで見ている男がいる。 手は震え、心臓の鼓動がいつもより早くなり、身体中に打ちつけるように音が鳴る。 男の緊張はピークでどうにかなりそうだった。 「黄色い思い出、樋口裕也(ひぐちゆうや)」 司会が受賞者を読み上げた。 その瞬間、拍手と歓喜の声が緊張した面持ちの男に注がれる。 男は一瞬よくわからず、時間が止まったように見えた。 音は無くなり、死んだらこんなせかいなんじゃないかと思った。 だが、周りに座る戦友の撮影クルー達が男を喜びながら叩いたおかげで、男は我に返って立ち上がった。 ―取れたよ。 男は天井を一度見てから、拍手と歓喜を全身に浴びながらステージに向かった。
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