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昼休みになり、私は校庭の隅にあるベンチに座った。入学して以来、ここは私のお気に入りの場所だった。
あの言葉を言われてから、自分の中で、何かが欠けてしまったような気がする。友達がほしいという気持ちがなくなったのだ。だから、私は中学で友達はできなかった。高校でもおそらくそうなるだろう。
気にするな、そう言われてしまえば、そうなのかもしれない。でも、心にべったりとくっついたものをなくそうとするのは無理だった。
「野原さん」
後ろから声が聞こえた。振り向くと川野君がいた。
「野原さん、誕生日4月27日なんだね。おれも同じなんだ」
やっぱり、気になっていたのか。正直、話しかけないでほしかった。しかし、この状況で無視をすることはできない。
「そうなんだ」
川野君の誕生日を初めて知るふりをして短く答える。
「すごい偶然だよな。同じ誕生日のクラスメイトがいるなんて。おれ、自分の誕生日好きだからさ。同じ人がいて嬉しいかも」
川野君は笑顔で言う。こんな風に笑顔でクラスメイトに話しかけられたのは久しぶりだった。
「なんで、好きなの」
「おれの好きな漫画家と同じ誕生日なんだ。その漫画、結構人気があってさ。そんな、すごい漫画を描いた人と同じ誕生日なんて、ちょっと誇らしいなと思ってる。まあ、野原さんを含めて同じ誕生日の人はたくさんいるんだけど」
「川野君は、4月27日で嫌な思いしたことない?」
「何で?」
語呂合わせが…、と言おうとしてやめた。嫌な思いをさせたくない。「なんでもない」と言いごまかした。
川野君は気にしなかったようで「提案があるんだけどさ」と言った。
「4月27日に、プレゼント交換しない?」
「プレゼント交換?」
「こんな偶然、めったにないしさ。素敵なことじゃん。おめでとうって言いあえる関係って」
私はその提案にとまどったが嫌だという理由が思い浮かばなかったのでうなずいた。
「じゃあ、27日、ここでプレゼント交換しよう」
そう言って川野君は去って行った。
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