とある女の子の話…「ありがとう」続き

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それから、俺は先に言い損ねた入学おめでとうをサンに伝えた。 予想に反してシイはブスッとした表情を見せた。 「サンと離れる事になるんでしょ?…おめでとうなんて言うなよ」 あれまあ… 乳離れ出来てない発言をくらわされる。 出会った頃は俺の方が、甘えん坊だった…らしい。 今では逆転してしまったみたいだ。 俺は生まれた時から、この一族にいた訳ではない。 物心ついた頃には母と言う存在は無く、父に育てられた。 しかし、俺の体は父と暮らす環境の空気が体に合わなかったらしい。 よく呼吸器系の発作を起した。 ある日、大きな発作を起こし生死の境を彷徨い、父は育てる事を断念した。 で、自分の出自である一族に俺は託された、らしい。 他人事の様な言い方だけど、俺自身は余りその辺りの事は断片的な記憶しかない。 一族の年寄り達が皆そういうんだから、そうなんだろう、、と思っている。 三途の川から生還し、目を開けると知らない風景、知らない人達。 俺は暫くの間、癇癪を起こして泣き叫んでいたらしい。 昼間は、それなりに落ち着いてはいたけど、夜になると何物か憑依した様に癇癪を起こす。 これも他人事みたいな言い方だけど、薄らとしか覚えてない。。 覚えているのは、何か民謡だか、子守唄だかを口ずさみ俺を抱きしめてくれる子。 シイの存在だけ。 不思議とそうしてもらうと、癇癪は治った。 転がる様に眠りに落ちる感覚。 それだけ鮮明に覚えている。 後で、シイが俺より1つ年下と知り、驚いた記憶がある。 歳が近いとは言え、泣き叫ぶ年上をあやすって難しそうだ。 『そこは気にならなかった…ただ、体が大きいから、かさばって抱きしめるのが大変だった』 なんてケロっと言われた。 かさばるってなんだ。。 物か俺は。。 気恥ずかしそうに「側にいて」と、言うシイに俺が「お互い様だからそんなの当然さ」と、癇癪に付き合ってくれた過去を引き合いに出すと予想外にドライな反応を示される。 シイは偶に気まぐれだ。。 そんなこんなを足して引いたりなんかしても…俺とシイの繋がりは特別。 そう思っている。お互い半身の様だ。 あれからずっと…今でも俺達は抱き合う様に眠る。 ******** 「…あんた達!…いつまで寝てるの!!」 おばさんの声で目を覚ます。 目を開けると、テントの隙間からの差し込む眩しい朝日。 逆光の中でも、俺の視界に飛び込むおばさんの顔がしかめっ面してるのが分かる。 俺は慌てて体を起こす。 ハンモックが揺れが大きくなる。 その刺激でも俺の半身…シイは眼を覚まそうとしない。 俺はシイの体を揺らしながらおばさんに謝る。 「…ごめんなさい…ねえ…ねえ、起きてよ!」 シイが夢現の状態で大きく寝返りを打つ。 その衝撃でハンモックが大きく揺れ、被っていたタオルケットが床に脱走する。 引きずられるようにシイも落ちそうにり、条件反射で俺に抱きついてきた。 「…落ちる…!…目、覚まして!!」 俺の叫びはシイの耳に届かず、さっきの言葉通り二人で逆さまに落ちる。 下のクッションに頭から着地した時、シイが目を覚ました。 視界に逆さま仁王立ちの母親が目に映る。 「…あれ…?…おはよう、、母さん」 「…おはよう…じゃないわよ!いつまでも一緒に寝るのやめなさいって何度も言ってるでしょ!先の事も考えなさい!!」 朝イチで、おばさんの雷が落ちる。 おばさんは基本的に大らかな人だ。 ギャロップ事件でも、そういう部分出ていた。 シイが物事をこじらせても、最終的には「どうにかなる」って構えている。 むしろ、おじさんの方が神経質で、思い通りに事を運ぼうと奮闘するタイプだ。 おばさんが、ここ最近、唯一目くじらを立てる案件が俺らが一緒に丸まって寝る事だ。 『何がきっかけで性別分化するかわからないでしょ!…いつまでも子供じゃないの!』 添寝が見つかる度、おばさんは判で押したの様にその言葉を口にする。 俺たち一族は、生まれた時は性別は未だ決まってない。 基本は女に近いが、生殖適齢期が近づくと男女それぞれに分化していく。 性別分化の完了は人生の大きな節目として一族皆でお祝いをする。 俺やシイももちろん、同じ同胞のお祝いに参加した事がある。 その時におばさんや、周りの年寄り達に性別分化について話を聞くことがある。 だから、おばさんが口を酸っぱくして苦言を言う気持ちは理解できる。 『生殖の対象として意識が芽生えた時に分化する事が多いの…何がその刺激になるかわからないわよ』 俺たちは、そうなる前に身につけなきゃいけない事、勉強しなきゃいけない事がごまんとある…つまりは、マセガキなんて一族にとっては以ての外なのだ。 そのせいだろうか… 俺たち一族は、他の民族や他国の人達に比べるとスキンシップは少ない。 一族の大人たちが、俺はシイに対し微笑ましく見守る気持ちと、厳粛な気持ちが押しくら饅頭している雰囲気を感じ取る事は多々ある。 シイの学校行きは諸々思う所あって決定した部分も多いんじゃないか、と思う。 それはシイも薄々気付いていて、 「どうせさ…最終的には一族の人間と結婚して次世代に繋げる事を期待されるんだし…色々神経質過ぎない?」 と、けんもほろろな言い草だ。
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