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プロローグ
「かわいい」13回。「ありがとう」10回。「嬉しい」8回。
「大好き」20回。「親友」7回。「一番」25回。(手紙含む)。
今日まゆかからもらった言葉たち。
「親友」がちょっと少ないかも。
でもまあよし。
私、村上まつりと橋本まゆかは小学校からの友だち。
いやそれ以上。
高校までずっとその関係を続けてきた。
キスどまりだけど、私はまゆかのことを本当に大切に思っている。
まゆかは本当に可愛い。身長は149cm。たれ目の童顔で、胸くらいまでの長さのふわふわした猫っ毛。
男子からも女子からも人気があるが、残念、まゆかは私のものだ。
それはもう小学校3年生で同じクラスになった時から決まっていたのだ。
手紙の交換も毎日欠かさない。
LINEなんて、俗なものじゃないのだ。あんなものは所詮データに過ぎない。
直筆で、相手のことを思って、一文字一文字書く。愛の証。
私の部屋には大事な宝箱があって、それはまゆかからもらった手紙でいっぱいだ。
その宝箱も、まゆかから誕生日プレゼントでもらった。
そっけない私の部屋に、燦然と輝く宝箱。
濃い赤と緑のタータンチェック柄の上で、可愛いテディベアたちが踊っている。
そこにはわたしの人生の輝かしくて尊い全てが詰まっている。
愛してる。まゆかのことを、一生。
「え?」
「……彼氏が、できたの」
高校2年生の春。クラス替えでまゆかと一緒のクラスになれなかったのは残念だけど、こうして手紙を交換しに互いのクラスに通い合うのもなかなか悪くない。1年生の時も別のクラスだったので、こうして私たちは毎日愛を育んだのだ。育んだのだ、7年間。
「いま、なんて……」
「……」
ガラッと教室のドアが勢いよく開いて、一人のチャラついた男子が私たちの方に近寄ってきた。こういう男が、この世で一番嫌いだ。似合いもしないくせに明るい髪に染め上げて、薄くニヤついた下品な口元。見るからに顔相も良くない。その忌々しい男子生徒が、わたしの大切なまゆかの肩を乱暴に抱き寄せた。
「もう近づくなよ、こいつに」
中途半場に高い声。ださ。
「は?」
「俺のもんだから、まゆかは。もう粘着質につきまとうな」
「まゆかから離れて」
「いや、だからそれはこっちのセリフで」
「もう、やめて」
まゆかが止めに入る。
「まつりちゃん、ごめんね。本当に。嘘じゃないよ。さようなら」
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