田村有

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田村有

雲の間から顔を覗かせる太陽の光が1面白銀のゲレンデをキラキラと照らす。今日もスキー、スノボ日和だ。でも俺は、そんな事に興味は無い。 「あ、久し振り~!」 俺は始めて会う女性に、さも友人かのように声を掛けた。 「あ~……えっ?!」 彼女は記憶の中の誰かと照合した後、その男性とは違うと気付いたようだ。 「友美ちゃんよね?」 「いえ……違います……」 「あ、ごめん。人違いみたいです。今日の夜、友美ちゃんとデートする予定だったんですけど、人違いついでで代わりにデートしてくれませんか?」 「えっ? ははは……。ごめんなさい、予定入ってます」 彼女は、ひきつった笑顔を作った後、きっぱりと断った。 「そうですか~、残念です。では、またの機会に」 俺は笑顔で手を振り、その場を離れた。 俺は今日、スキー場でナンパをしている。今日と言うより、今日も、と行った方が正しいかも知れないぐらい、冬場は毎週スキー場にナンパをしにきている。 振られたからって「お高くとまってんなよ」だの「ふざけんなブス」だの文句を言って去る男がいるってのを耳にするけど、そんなバカな事はしない。何故なら、今振られた女性に2度目のナンパをする可能性が大いにあるからだ。おんなじ相手を誘っても無理に決まってるじゃんって思われるかも知れないが、そんな事はない。と言うより、むしろ成功率が上がる。それは、全く知らない人から誘われたら恐怖を感じるって人がほとんどなのに、1度声を掛けられただけで、知っている人だと認識して安心するからだ。あとは、また出会った~と勘違いする、女性特有の運命体質も関係していると思う。 俺の名前は田村有(たむらゆう)。清涼飲料水メーカーに勤めて1年目の23歳。可もなく不可もない社会人生活を送っている。 俺には中村っていう、大学時代から仲の良い親友がいるんだ。彼の家はスキー場から車で30分という山奥にある。 1年前、大学の卒業旅行として、2人で彼の実家近くのスキー場へスノボをしに行った時にナンパが成功したので、冬限定でのナンパに嵌まりだした。何故、冬限定かと言うと、俺達の見た目が良くないってのが理由だ。普通の場所でブ男にナンパされても誰もついてこないだろ? 俺達はゲレンデマジックを利用しているんだ。スキーウェアにサングラスをしてたら、男を見る部分なんて身長ぐらいしかないからね。一応175センチで高身長だから、見た目は問題ないって話。筋肉質なら、なんちゃってサーファーとかいう方法もとれるけど、俺達はガリガリで身体にも自信が無いからね。 一応、プレイボーイ枠に入るのかな。イケメンじゃないからプレイボーイにはならないって言われそうだな。経験人数は何人だって? そうだなあ……まあ、両手でちょうど数えられるぐらいかな。えっ? プレイボーイって言う割には少ない? じゃあ、これが全てワンナイトラブって言ったらどうだい? 一気にプレイボーイ感が出るだろ? ふぅ……まあ、ネタバラシをすると、両手で数えられるって言っても右手と左手って意味。要するに2人だけなんだ。ワンナイトラブって言うのも、こっちは今後も付き合っていきたいのに、相手がその気になってくれないだけっていう悲しい話……。サングラスを外してスキーウェアを脱げば、雪のようにゲレンデマジックが解けちゃうんだろうね。
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